ポール・マッカートニー Live@東京ドーム 2002.11.13 感想

2002年11月13日@東京ドーム

半額チケット!

ワタクシ、急遽、ポール・マッカートニーのライヴに行く事を決意いたしました。

なんだかんだ言ってたけど。ホントさっきまで諦めてたけど。
昨日も、野球を観ながら、東京ドームの事が気になってた。深夜にネットにつなげると、予想通り、あちこちのサイトで絶賛・絶賛のオンパレード。【過去最高の演奏・ポールの声】【絶対観るべき】...。

もう、気持ちはグラグラしてました。「14000円くらい、ケチッたらダメだろ」「このチャンスは今しか買えないんだぞ?」「当日券あるよな?何時から並べばいい??」...心の中で自分に問い掛け続ける僕に、さらに背中を押してくれる声が。
元KAZZさんの日記の中の言葉「これは絶対に生で聴くべき。一度でもポールの音楽に感動したことがある人は、借金してでもコンサートへ行ってください。」に。
そして、ヒメさんの「そこまで行く気になったのなら・・・。自分より安い金額でチケを手に入れた人がいるといても全く気にならないし、それより空席がある方がずっと悲しかったりします。」に、心を動かされました。
今14000円はキツイけど、来年じゃあ10万円出す、ったってムリなんだから...そうだよな、行くべきだよな!と、ついに気持ちが固まったのでした。

じゃあいつにする?当日券はちゃんと手に入るのか??と思い、ネットで情報収集に入ると...なんと、e+(イープラス)で、『緊急得チケ・ポール・マッカートニー半額』が売り出されているのを発見!!
日にちは13日と決まっている事・カード決済のみ・二階後方席などの条件付きではあったものの、日にちや座席にはこだわらない僕としては充分、しかも、ダフ屋やオークションではない正規のルートでの販売でこの価格(7000円+手数料500円)。
そしてこのタイミング、もう僕に「行くしかないでしょ」と言ってるようなもの。即行でe+の会員登録を済ませ、チケットの申し込みをしたのでした...。

これでなんとかひと安心。
当日券が手に入るのかハラハラしながら長時間並ぶ必要はなくなりました。でも、予約した券を何らかの事情で引き換えられなくなっても、カードからお金が引かれてしまうから注意。引き換え番号間違えたりしないように、とか。身分証明書も必要だと言うから忘れないようにしなきゃ、だし。
そう言えば、ブライアン・ウィルソンの時も、直前で行く事にしたんだった。それでホントに良かったと思ったんだった。今度もそうなるといいな。...でも、ころころ変わってごめんなさいね(笑)。

という訳で、なんだかんだ言ったけど、紆余曲折したけれど、行く事にしました。ポール。この日記を読んでくださってた皆さん、いろいろご迷惑をおかけしました。そしてありがとうございました!...さて、抑えてた気持ちを一気にポール・モードにしないと!(笑)

ライヴ当日。会場へ

そして行ってきました。
途中、CDを買い物しながら適当に向かったのだが、ほぼ計算通り5時に東京ドーム到着。
ここに来るのも何年振りだろうか?たしか、生まれて初めて買った馬券・ナリタブライアンの皐月賞をここのWINSで買ったのを憶えてる。あれは94年だから8年前か。松井がプロ入り初のサヨナラホームランを打った試合を観たのは、それと同じ年の事だったか、それともその前の年か。いずれにせよ、まだ松井が1~2年目の時だった。その松井も立派な日本の四番になって、来年はメジャー。月日は流れたものだ...。
ただ、思ってたより変わった印象はなくてホッとした。僕の知ってるドームの姿だった。

イープラスの半額チケットは、当日券売場ではなくて、前売券売場での引き換え。
5時から引き換えとの事だったが、ほとんど人は並んでなかった。名前のあいうえお順に窓口が指定されていて、そこで名前と引き換え番号を言っての交換。
もしなんらかの事情でチケット確保できなかったらヤだなあと思っていたけれど、無事に入手。これでなんとか観られる事になった...。
なんだか、ここで初めて、今までポールのライヴについて思っていたモヤモヤが晴れた気がした。

前売券売場横のベンチで腹ごしらえをしても、まだ5時半。開演時刻までまだ1時間半もある。WINS横にある本屋にて時間をつぶす。ここは競馬関連の本もたくさんあるし、ライヴの関係でビートル本もたくさん並んでたので、いい時間つぶしになった。「発売日前だけど、あるかなあ?」と思ってたらやっぱりあった『レコード・コレクターズ』を買って、そろそろ飽きたのでまたドームの方へ。

今回、グッズは何も買わず。前回の来日時はパンフ等も買ったけど、最近はライヴでも映画でもパンフすら買わなくなった僕。もちろん経済的な理由からだね。やっぱりちょっと高いよ、パンフって。
ただ、今回のパンフは読み応えあるので、2500円分の価値はあるよという話を聞いてたから、ちょっと中身が気になってグッズ売場をフラフラするも、見本などは置いてなかった。残念。
場合によっては買おうかな、って事も考えたけれど、やっぱりこういうのは記念モノ。今までのパンフもそうだったように、買った日以降ほとんど読まなくなっちゃうだろうから...ってことで、やっぱり我慢。「記念」だけに2500円は出せないや。
Tシャツなどの衣料品も、思ったよりデザインが良くて、お金があったら買いたいなあ...って思うものが多かった。あんまり見てると欲しくなるから、真剣に見ないでその場を立ち去った。

で、ドームに来た記念に僕がよくやるのがドームの外一周。
今回もぐるっと周りながら、いろんなことに思いをめぐらす。今までドームに来た時の思い出。これからのライヴの事。各ゲートから入るお客さんの様子。
一周した後で、野球グッズ売場(実は初めて入った)でフラフラしてると、6時半を過ぎた。もうそろそろ中に入った方がいいかな...。

この日は4時から当日券を発売してたが、券を求める列はいつ見ても途切れる事なく、開演30分前のこの時点でも、まだ売ってたようだ。「まだ余ってるのかな?」「全部売れたらいいな」「もっと来ないかな」と思いながら、40番ゲートへ。僕は2階席。半額チケットなんだし、席の事は文句言えまい...。
そう思いながら入場したのだが、僕の席は2階・8列・290番。
1塁側で、ホーム~ライトのちょうど真ん中くらいの位置。ステージから45~60度くらいの角度。
思ってたよりステージがよく見える。7月にコステロを観た国際フォーラム2階席とあまり変わらない距離なんじゃないか?ってくらいに感じたほど。
たしかに、半額とは言ってもS席なんだもんね。A席よりはいいって事だし、ステージのほぼ真横になるライトスタンドやレフトスタンドの人よりずっといいと思う。
カメラ塔やネットなど、視界を遮るものも何もないし、前の人の頭は僕の膝の位置。こりゃあ思ってたよりずっとよく見えそう。
高所恐怖症なので、それが少し心配だったのだが、1列目じゃないからそういう怖さもナシ。充分。
これで半額なんだから、かなりお得だったと思う。定価出してもっと悪い席だった人もいっぱいいたと思うし。ほんとラッキーだったなあ。

ライヴのスタート

初日は30分以上遅れて開演したというから、そんなに待たされるのは嫌だなあと思ったけれど、とりあえず7時ちょうどにトイレに行き、帰ってきてから少しすると、アリーナに様々な衣装をまとった人たちが入ってきて、噂のプレ・ショーが始まった。この時、7時10分すぎくらいだった。
欧州貴族風、インド風、アラビア風、中国風、和風...豪華絢爛・多種多彩・妖しげなショーの始まり。アリーナには大きな風船を持って歩き回る人たち、ステージ上では伝統芸能?雑技団?マジック?が行われ、悪く言えば異様なムード。訳わからないと言えばわからないしね。僕としては決してキライではないし、これはこれで良さがあるのは認めるけれど、正直よくわかんないし(笑)、みんな早くポール出て来い、って感じだろうなあ、と。
どういう意図があるのかわかんないけど、『マジカル・ミステリー・ツアー』や『ヤア!ブロードストリート』なんかを思い出した。ポールってば、やっぱこういうの好きなんだね、と。

そして15分ほど過ぎると、いよいよポール登場の気配。お客さんはそれをわかってるようで、一気に拍手が大きくなると、ステージ上に、大きなへフナーとポールのシルエットが...。

01. Hello Goodbye
02. Jet
03. All My Loving
04. Getting Better
05. Coming Up
06. Let Me Roll It
07. Lonely Road
08. Driving Rain
09. Your Loving Flame
10. Black Bird
11. Every Night
12. We Can Work It Out
13. You Never Give Me Your Money
14. ~Carry That Weight
15. The Fool On The Hill
16. Here Today
17. Something
18. Eleanor Rigby
19. Here, There And Everywhere
20. Michelle
21. Band On The Run
22. Back In The U.S.S.R
23. May’be I’m Amazed
24. Let ‘Em In
25. My Love
26. She’s Leaving Home
27. Can’t Buy Me Love
28. Live And Let Die
29. Let It Be
30. Hey Jude
(Encore 1)
31. The Long And Winding Road
32. Lady Madonna
33. I Saw Her Standing There
(Encore 2)
34. Yesterday
35. Sgt.Pepper’s Lonely Hearts Club Band(Reprise)~The End

シルエット姿でキメるポールはカッコ良かった。その後、踊る姿も映る。相変わらず元気だなあ、ポール...。
観客の声援もヒートアップして、「ハロー・グッドバイ」
過去の公演でもやったものだと、最近まですっかり勘違いしてたのだが、実は初披露なんだね。誰もが知ってる曲で、しかもビートルズで、飛ばしすぎにならず、でも盛り上がるという、いい感じでリラックスした幕開けになる曲だと思った。

相変わらずイントロがカッコいい「ジェット」、これを聴くと、ああウイングスだなあ、(ビートルズではなく)「ポール」だなあと思う。
ここでようやくポールを観ているんだという事を実感。

今回のライヴの中では割と渋めの選曲となる「ゲッティング・ベター」
元気よくハネてはいたが、キメの「♪ getting so much better all the time」のall the timeのところを変えて歌ってるのがガッカリ。あそこをシャウトしてこそこちらは昇天できるのだが...声が出なくて変えざるをえなかったのか?なんだかちょっと欲求不満...。

初日の話では、「ものすごく声が出ている」「完璧」などという事だったが、ここまで聴いた感想としては、「完璧ってほどではないなあ...」だった。事実、「カミング・アップ」でちょっとひっくり返る。あわわ、ポール...一日空いてたし、初日よりもさらにいいんじゃないかと期待してたくらいだったのに、だいじょぶかなあ??

大好きな新作『ドライヴィング・レイン』から「ロンリー・ロード」
新作からは当然何曲かやってくれるだろうと思っていたが、冒頭のこの曲をやってくれると聞いて非常に楽しみにしてた。
イントロの調子っはずれに聞こえる(?)ベース・ソロに始まり、段々と盛り上がってのハモリがカッコいいナンバーだ。
後半はアドリブ・シャウトで、ここでは「♪ lonely lonely lonely...」なんてフレーズを入れるところがすごくポールらしいなあと思ったね。

それから「ドライヴィング・レイン」
「♪ 1・2・3・4・5!」と煽るこの曲もすごく好きなんだけど、生で聴いてみて、思ってた以上にライヴ映えする曲だと思ったね。
この選曲はリストに入れて大正解。バンドの演奏もバッチリ。ものすごくカッコよかったぞ。

そして新作からのもう一曲はバラードの「ユア・ラヴィング・フレーム」
へザーの事を歌った曲だと言ってたね。
それにしてもどうだい、この3曲は。お客さんの反応もまずまずだったんじゃないか?僕は傑作だと思ってる新作なんだけど、世間の反応はイマイチで。だからこの3曲で「どうだい?新作いいだろう?買ってなかった人も買いたくなったんじゃないか?」と、少しアピールできたんじゃないかな。僕としても溜飲の下がる思い。

それからやっぱり特筆すべきなのはこのバンドの演奏力。
新作もこのメンバーが中心になっていたのだが、なんて言うか...今までのポールのバンド(ウイングス以降)とは方向性が違う気がする。
今までのはやっぱりあくまでバック・バンド。いかにポールの曲を再現するか、いかにポールを盛り上げるか、って感じだったよね。それは仕方のない事でもあるし、もちろん正解ではあったんだけれど、今回のバンドはちょっと違ってて、単なるバック・バンドって気がしないんだよね。
今までは、ポールのためにメンバーが集まったという感じだったけれど、今回は逆に、もともとあったこのバンドにポールが入ってった、というような。それでメンバーもポールに(いい意味で)物怖じしてないし。
迫力あるドラムのエイブ、ハードに泣かせるギターのラスティ、ベースとギターをとっかえひっかえブライアン、安心感のあるキーボードのウィックス。
普段はバック・バンドの事なんて興味がいかない僕も、すぐに全員覚えてしまった程だ。今回のツアーが好評なのは、このバンドの力が大きいね。
リンダがいない、って事は、コーラス面などを考えると、少し寂しく感じてしまうかなあ?と心配したのだけれど、正直言って、リンダのことは忘れてた。逆にリンダがいない、って事を活かして、男っぽく、ぐいぐい持っていくサウンドに仕立てたと思う。今まではほのぼのとしてたからね。
もちろん、どっちがいいとかじゃなくて、このバンド編成の良さを活かせてた、って事だ。

で、このバンドはポールと対等に接しているので、「ポール、独りでできる事はきちんと独りでやれよ!」と、ポール一人を置き去りにしてしまい(笑)、始まるのがアコースティック・コーナー。
まずはギターで。ポールのギター弾き語りといったら思い出す筆頭「ブラックバード」
あのスリー・フィンガーを生で堪能。

次はファースト・ソロから「エヴリナイト」
これまた好きな曲なのだが、サビの「ooh ooh ooh...」の盛り上がりがちょっとイマイチ。ここが最高にいい所なんだけど、やっぱりポール一人では限界があって、若干弱く感じた。ドラムがないためか?昂揚感に欠けたなあ。
ドームという大きな会場では裏目に出てしまうアレンジか?好きな曲なだけに気になってしまった。もうちょい工夫が欲しかったな。

逆に、ポール一人でのアレンジにして正解と思えたのが「恋を抱きしめよう」
前回のツアーでもやったのだが、ちょっとぬるく感じてたんだよね。今でもCDを聴くと、テンポも遅いし、なんだかなあ...って思っちゃうのだが、ポール一人でとなったこの演奏は、また違った味わい・温かみが出てマル、だった。
サビの部分では、ジョンのパートの所を歌って、「いまポールとハモッてるぞー」と思ったのは僕だけではあるまい。
ただ、僕の周りの人はほとんど歌ってなかったので、小声でやらざるをえなかったけどね。

ギターでの弾き語り3曲が終わると、サイケ模様のエレピが登場。
これで何から歌うのかな?と期待。ポールがポロンポロンと弾くフレーズのコード感から察すると、あ、あれか!「ユー・ネヴァー・ギヴ・ミー・ユア・マネー」
『アビイ・ロード』の中で一番好きな曲。90年のライヴの時に、「ゴールデン・スランバー~キャリー・ザット・ウェイト」の中のワンフレーズとして聴けて感動したものだけど、今回はもっと長め。
バンド演奏やハーモニーの付いた豪華なものもいいけれど、ポール一人の弾き語りってのも、憂いが増して別の味わい。
そして「キャリー・ザット・ウェイト」へと続く。

そして中盤のハイライト、追悼コーナーへ。
伝えたい事を伝えられないまま別れてしまったジョンに捧げる「ヒア・トゥデイ」
「ジョンとの対話」と言ったポール。なるべく邪魔をしたくない...という空気が会場に広がる。
演奏が終わると「ジョンに拍手」。もちろん会場は大拍手。ジョンに?ポールに?素晴らしいこの瞬間に?誰に対してこんなに拍手をせずにいられないのか、正直僕はわからなかった。

そして、「次はこれだよ!」と言わんばかりにポールがウクレレを高々と掲げる。当然のようにここでも大歓声。
ジョージとのエピソードを嬉しそうに、そして誇らしげに語った後の「サムシング」
もちろんここで聴けるのは、『アビイ・ロード』で聴けるものとは全く異質のもの。演奏も豪華なものではないし、ヴォーカルもジョージではない。単純にコピーしたとしても、ジョージの声ではない「サムシング」は別物。だったら...という思いで、ポールはウクレレでの演奏にしたんだと思う。
一部の雑誌では「いただけないアレンジ」などの記事が載ってたけどね。僕にはコミカルには聴こえなかった。哀しい音だと思った。でも、その哀しさをムリヤリ笑顔に変えてるような...そんな演奏だと思った。
この時にスクリーンに映し出されたジョージの写真が素晴らしくカッコ良かった。冒頭の斜に構えたジョージから、ラストのディレクターズ・チェアに座る後ろ姿のジョージまで。あの後ろ姿にはやられたなあ...。

それから、ビートルズ中期のバラード三連発。
「エリナー・リグビー」「ヒア・ゼア・エヴリホエア」「ミッシェル」
この中では「ミッシェル」が一番良かったなあ。なんだか裏びれたムードが出てて。
で、この「ミッシェル」の前に「フランスに行こうか!」と叫んでたのは意味わかるけど、それよりも何曲も前にも同じ事を叫んでたよね。なんの曲だか忘れちゃったけど。あれはなんか意味があったのだろうか。それとも間違い?ただ単に「フランスに行こうか」の語感が好きなんだろうか?「オッスー」みたいに(笑)。

で、バラード三連発の辺りからちょいちょいバンド・メンバーが戻ってきてたのだけど、ついにバンド完全復活!という感じで演奏されたのが「バンド・オン・ザ・ラン」
スクリーンにはウイングス・マークを手で形作るお客さんの姿。やっぱこの曲は外せない。一気に盛り上がる。これぞポールのバンド!ポールの自信作!って感じだ。
ただ、3部構成のこの曲、明るくなるサード・パートの手前のキメのリフの部分がめっちゃスローでノレなかった。なんでこんな遅いんだ?ブライアンがアコギに持ち替えるまでの時間稼ぎなんだろうか。この部分だけがちょっと...だった。

「バック・イン・ザ・USSR」では、もうノリにノッてきたという感じで、そんな盛り上がりの中で、続いて演奏されたのはバラードの「恋することのもどかしさ」だった。
この日のベスト・パフォーマンスは間違いなくこの曲だと思う。この日に限らず、今回のツアーでの最大の見所がこの曲なのかも。
実は僕、この曲にはあまり思い入れがなくて、CD聴いてても飛ばしてしまう事も多い曲だったりするのだけど、そんな僕でも、ベストはこの曲だと思った。
激しさを抑えるように抑えるように、汗を振りまきながら鍵盤を叩くポールはもちろん、メンバー全員が、爆発寸前の状態をギリギリの所で保ったままでの演奏。ものすごかった。

「カミング・アップ」以降も、僕が気付いただけでも4~5ヵ所、かすれたりつぶれたりひっくり返ったり、怪しい所があったポールのヴォーカルだったが、中盤からは完全に立ち直り、このあたりからは完璧だったと思う。

それから、僕が今回楽しみにしてたのが「マイ・ラヴ」
ベタな曲なので、昔はそれほど好きではなかったんだけれど、最近何故か気になってきたんだよね。
いよいよ始まった...と思ってうっとりしながら天井を見上げる。天井がやけに近い。さすがに二階席だ。天井...そうだ、松井はあの天井に何回もボールを当てたんだったな、すごいよな。そう言えば、しばらく生で野球観てなかったな。また観たいな。さっき前売券売場で、まだ日米野球のチケット残ってる、って言ってたっけ。松井の最後の勇姿を観ておこうかな、どうしよう。観たいな。お金あるかなあ。いつにしよう。さっきチケット買えば良かったな。もう閉まっちゃったしな。どうやって手に入れよう。でもお金ないんだよなあ.....なんて事を考えてたら、「マイ・ラヴ」終わっちまった!!うわーっ、肝心のギター・ソロを意識するの忘れちまった~!
完全に野球の事に意識が飛んでしまっていて、耳に入ってなかった(涙)。これはいかん。反省。余計な事考えてないで、ポールに集中しないと...。

「シーズ・リーヴィング・ホーム」では、ポールの後ろで何かがユラユラ動いてるなあと思ったら、エイブだった(笑)。
コーラスのために前に出てきていたんだね。
オリジナルのアレンジからすると、ライヴではやらなそうな曲だと思ってたけれど、なかなかの出来。

そして「死ぬのは奴らだ」
お決まりの爆発シーンは今回も健在。ビックリして心臓を痛めないように、音の方は警戒していたのだが、光の方を思いっきり見てしまい、しばらく目の前がぼやけてしまって困った。

お決まりと言えば、「ヘイ・ジュード」のコーラス大合唱。
大合唱と言っても、僕の周りのお客さんはあまり歌ってなかったけどね。ま、僕も似たようなもんだけど(笑)、いいの。落ち着いて観れるから。アリーナで盛り上がるお客さんたちを微笑ましく見守る僕。

ここで本編終了。実はここまでの2時間強、ポールは出ずっぱり。歌いっきり。すごいよなあ。

そしてあまり間を置かずに登場、アンコールでの「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」は、オーケストラ・ヴァージョン、ポールの弾き語りヴァージョン等いろいろあるけれど、今回のようなアレンジは初めて聴いたなあ。
テンポも速く、「バンド」を意識させられるアレンジだった。この曲の持つ、しっとり感動的な魅力は削がれていたように思えるけれど、新鮮ではあった。だから、結果的にこのアレンジはいいのか悪いのかはわからない。

そして「レディ・マドンナ」「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」と再びダンス・ナンバー。
演奏後、ポールがスタッフにヘフナーをロング・パス(投げる!)する所は、このツアーでの隠れた名場面のひとつ。

アンコール2として、「イエスタデイ」のあとは「サージェント・ペパーズ(リプライズ)」から「ジ・エンド」
「ジ・エンド」での3人のリード・ギター・アドリブ合戦。実はよく聴こえなかった。音響の問題か?フレーズがぼやけちゃってて訳わからん状態。加えて言うならば、アドリブ(実は決まった毎回フレーズ弾いてるのかもしれないけど)もいいんだけれど、僕らからすれば、『アビイ・ロード』でビートルズが弾いたフレーズが染み付いているので、これを聴きたいんだよね。だから、ある程度好きに弾いた後、オリジナルのフレーズも弾いてくれればもっと盛り上がったのになあ、と思う。フィニッシュ(ピアノ・ソロ)に向けて、心の準備ができず、なんだか消化不良気味...。

しかし、これで終わった。全曲終了。
メンバー全員手をつないで、お辞儀して、ラインダンス。
ポールが楽しそうに手を振っているが、これで終わり。これでまたしばらく観る事はできない。もしかしたら、これが最後なのかもしれない。そう思うと、やっぱりライヴが終わって欲しくなかった。ポールにいつまでもステージにいてほしかった。
ポールの姿が完全に消えた後で、プシューッ!!舞台脇から紙吹雪。なんてヘンテコなタイミングなんだ。ポールたちがステージで手を振ってる時にやらなくちゃあ。このタイミングでは、歓声のひとつもあがってなかったぞ。なんというショボさだ...。

ポールはすごかった。大切な人に観せたいライヴ

しかし、あっという間の2時間半だった。いつもだったら、開始から何分くらいたったのか、あと何分くらいやるのだろうか?と、時間を気にしてしまう僕だったけど、今回はまったく時間が気にならなかった。それだけ、目の前のポールに集中できた(僅かに心が野球にいったけど)。
僕の周りの人たちはほとんど座ったままで、大声で歌うという事もなく、おとなしく観てた。僕も静かに観たい方なので、僕にはピッタリの場所だったかな。前の人が立ってしまえば、立たざるをえなかっただろうけど、全然そんな気配はなかった。
かといって、みなしらけてるという事では決してなく、それぞれが静かに盛り上がっていたのがわかった。座りながらも、周りに迷惑をかけない範囲で体を揺らしたりリズムを取ったり手拍子したり。
一緒に歌うのが好きな人もいるかもしれないけれど、じっくりポールの声だけを堪能したい人も大勢いる。アリーナでガンガン踊って歌ってる人たちから見たら、「ノリが悪い」と映るんだろうけど、そうじゃない。僕にはわかった。僕の周りの人たちもしっかり「ノッていた」事が。2階席なりのノリ方もあるのだ。「レディ・マドンナ」や「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」のあたりなんか、すごく一体感があって気持ち良かったよ。
ただ、座りっぱなしなので、かなりお尻が痛かったけどね。

そしてポールはたしかにすごかった。前半、若干心配な面もあったけれど、中盤以降は素晴らしいヴォーカル。
実は、『エリザベス女王ライヴ』など、最近のライヴなんかをテレビで観て、なんだか力の抜けたようなヴォーカルだなあ、ショボいなあ...と感じていた。魅力を感じなかった。確実に「老いた」と思った。それが、初め「ライヴ行かない」と考えていた理由のひとつでもあった。
だから、「声が出ている」「過去最高のライヴ」という噂を聞いても、半分疑っていた。しかし、この日聴いたポールのヴォーカルは、テレビで聴いた覇気のない声とは全然違った。ハリがあってツヤがあってパワフル。今までCDで聴いてきたポールのヴォーカルのイメージとまったく違わない。でもこれって、よく考えたらすごい事なのだ。「そういえば60歳なんだよな??」と、後になって思い出す。聴いてる時は、そんな事を思い出させないのだ。
全盛期の20~30代のイメージを損なわせないヴォーカル。たしかに、90年、93年の時を思い出してみても、ここまでじゃなかったような気がする。ますます磨きがかかったのか??
とにかく、「ポールは終わった」と考えてた人は、このライヴを観れば、それが間違いだった事に気付くはず...。

余程好きなアーティストのライヴじゃないと観に行かないという、根本的にライヴの苦手な僕。
ギリギリまで「行かない」と決めてたくらいだから、今回も冷静に、どこか一歩退いた目で観ていた。実際、涙は出なかったし、そんな僕が「最高!」とか「感動した!」と書いてしまうとなんだかウソっぽい気がする。ひねくれてるのかもしれないけど...。
でも、ライヴを観ながら思った事は、このライヴは、大切な人に観せたかったなあ、という事。一人で観るのはもったいない。たくさんの人に観てもらいたい。できれば好きな人や家族など、大切な存在の人に観せてあげたい、そう感じた人が多かったんじゃないかな。
初日のライヴ後、ネット上でも多くの人が「観るべきだ」と薦めていた理由がよくわかった。

それから、もうひとつわかった事。
今回の報道なんかでも、どうしてもビートルズ関連の事がクローズアップされている。何曲ビートルズ・ナンバーをやっただのなんのって、「元ビートルズのポール」のライヴというスタンスで報道される事が多いんだね。いまだに。それはもう仕方のない事だし、実際そういう面を求めてる人が多い、って事なんだろう。
だから、このライヴを観た後、「ポール一人でこれだけ感動したんだから、ビートルズのライヴを観たらどれだけ感動しただろう...」なんて意見が上がったりもしていた。
でも僕は、ちょっと違った。ポールのライヴに【ビートルズ】を求めてはいなかったんだな。あくまでポールはポール。そう言えば昔ビートルズにいたんだよな、くらいの感じで、【ポールが作った曲】を求めていた事に気付いた。それがビートルズ名義のものであれ、ウイングス名義であれソロであれ、ポールの作った素晴らしい曲を求めていたんだな、と。
そして、その曲を演奏するポールの姿を求めていた。「ジ・エンド」にはビートルズを求めてたじゃないか、って?あれは例外...というか、そういう細かい事ではなくて、【ビートルズ】という枠は、あまり僕の中では重要ではなかった、という事なのかな。とにかく「ビートルズ・パワー」じゃなくて、「ポール・パワー」を感じたかったのだ、と。そんな自分の気持ちにも気付いたかな。

だからきっと、このライヴを観て良かったんだろう。これを観て、あらためてポールが好きになったし。ライヴ後は、次の日のライヴも観たくてたまらなかった。終演後、チケット売ってたから買いそうになった。お金なかったけど。大阪公演まで行きたくなった。もちろん、一日分さえまともに出せなかった身の上としては、それは無理な事なのだけれど、そこまでの気持ちになるとは思わなかった。「一日観れば充分」と感じると思ってたのに。
いや、本来なら、これを見逃す所だったわけだから、「一日でも観る事ができて感謝」という気持ちでもあるんだけどね。とにかく、間に合って良かった。
心変わりに協力してくれた(?)皆さん、ありがとう。『これを体験できて良かった』。これに尽きる。

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