井上陽水 Live@昭和女子大学人見記念講堂 2017.5.12 感想

2017年5月12日(金) @昭和女子大学人見記念講堂

精力的にツアーをやる陽水

昨年、念願の陽水のライヴを観れたんだけれど、セットリスト的にはイマイチで、僕の大好きな曲があまり聴けなかったから、次の機会があればまた絶対観に行こうと思っていた。
そしたら、前回のツアーが終わって半年と立たないうちに次のツアーが決まってビックリした。こんなに早く新しいツアーが決まるとは、随分と精力的だなあ、陽水。
しかも、『United Cover 2 Tour』という、カヴァー曲をやりますよというツアーが終わっての、『Good Luck!』という新ツアー、カヴァーが好きではない僕にとっては、オリジナル曲で固めたツアーは願ってた事なので、これはもう絶対行こう、と。
チケットは、イープラスの最速先行で、運良く確保する事ができた。

カヴァー曲をやってた前ツアーが終わって新ツアーになって、セットリストをガラッと変えてくるものと思っていたけれど、いざ4月にツアーが始まって、セットリストをチェックしてみると、意外と前ツアーと同じ曲を多くやってるのにちょっとガッカリ。すべての曲を入れ替えるくらいを期待してたからね。
でも、その中でも「結詞」「つめたい部屋の世界地図」「勝者としてのペガサス」あたりが聴けそうなので、それらに期待して臨む事にした。

ライヴ当日。会場へ。席も良い

会場の昭和女子大学人見記念講堂は、昨年エルヴィス・コステロのライヴで来たばかりだったので、様子も知ってるし、余裕を持って出かけられた。
途中、渋谷で買い物をしたりして、開演15分前に会場に到着。
さすがにお年寄りが多いなあ(笑)。
先日のポール・マッカートニーのライヴも中高年が多かったけれど、今回はさらにその上。ポールの時は、歳は取っていてもロック好きの元気な人たちが多い印象だったけれど、今回は、ロック好きの人たちの集まりとはあまり思えず、枯れた味わいの空気で一杯で(笑)。

今回の僕の席は1階ケ列12番。
30列以上ある中で、前から8列目、しかも通路側の席と、僕にとっては文句の付けようもない素晴らしい位置の席だった。
先行抽選でこんな良い席が当たったのは初めてと言っていいかも。先行抽選なんて、いつも後方席ばかりという印象が強かったからね。悪い席から先にさばいてるんじゃないかと疑ってたくらい。早くても良い席が当たる事があるんだという事がわかったのは発見だった。
ステージまでは10~15mくらいなので、たしかにこれは近い。
こんな近い位置でライヴを観るのは久し振りだ。

ライヴのスタート

18時30分の開演時間を7分ほど過ぎて、バンド・メンバー登場。
ギター2人、ベース、ドラム、キーボード、女性コーラス2人。

01. この頃、妙だ
02. Pi Po Pa
03. フィクション
04. 青空、ひとりきり
05. Make-up Shadow
06. 移動電話
07. 5月の別れ
08. 映画に行こう
09. ワインレッドの心
10. 女神
11. 瞬き
12. かんかん照り
13. Just Fit
14. リバーサイド ホテル
15. 限りない欲望
16. 嘘つきダイヤモンド
17. 氷の世界
18. 長い坂の絵のフレーム
(Encore)
19. アジアの純真
20. 夢の中へ
21. 傘がない

演奏が始まって、女性ヴォーカリストのスキャットが続く中、陽水が登場。
紫色のジャケットに山吹色のシャツという、毒々しいコーディネートだ(笑)。

1曲目は「この頃、妙だ」
これが入っている『バレリーナ』は聴いた事ないアルバムで、当然聴いた事ない曲。売れたアルバムでもないし、特に人気があるとも思えない、こんなレアな曲でライヴを始めるなんて、攻めてるなあ。
妖艶な雰囲気で、たしかにどこか妙な曲。陽水も妙なステップでリズムを取りながら歌う。

その妖艶な雰囲気のままメドレー形式で「Pi Po Pa」に繋がっていく。

陽水がアコギを手にしたけれど、演奏は途切れないまま「フィクション」になだれ込む。

ここまでの妖艶さが一瞬で変わって、ファンキーな「青空、ひとりきり」
チョッパー・ベースが印象的。
この冒頭4曲はメドレー形式。ライヴ後半で盛り上がってきた所でメドレーなんてのはよくあるけれど、冒頭にメドレーを持ってくるとは意表を突かれた。なるほど、こうやって一気に客の心を掴むのか。

陽水のライヴの楽しみでもあるMC。
もはや陽水のMCは名人芸。
ちょっとしゃべり始めただけで、客はクスクス笑いだし、中オチ、締めオチ、ドッカンドッカンウケる。
陽水がMCで客を笑わせようと一生懸命ネタを考えてきたとは到底思えず、これは陽水の独特のキャラクターにより自然と作り上げられたものなんだろうけど、キャラだけでこんなにウケるなんて、落語家やお笑い芸人は羨ましいのではないか。
それほど、スベり知らずの陽水のMCだ。

「Make-up Shadow」
思い出のある曲とはいえ、前回のライヴでも聴いたので、新鮮味はなかったけれど、相変わらずカッコいい。
これは毎回聴いてもいいなと思ったし、セットリストの定番にするべきだなと思った。

「移動電話」
これも前回のライヴで聴いたけれど、ロッカ・バラードのリズムがいい意味で単調で心地良く、好きな曲だ。

さらに、しっとりとしていながらもどこか爽やかで、まさしくこの時期ドンピシャの「5月の別れ」
ここまでの3曲が前半のハイライト。

「映画に行こう」は、最近の企画盤に収録されたとはいえ、元々はオリジナル・アルバム未収録の、昔のシングルのB面という、地味な存在のブルース曲。
それなのに、前回のライヴに引き続きセットリストに残されてるなんて、よっぽど陽水が今気に入ってる曲なんだろう。

オリジナルよりも、よりバンド・サウンドが目立った「ワインレッドの心」

『United Cover 2』収録曲なので、前回のツアーでもやった「女神」「瞬き」
サンバ風のお祭り騒ぎな「女神」と、お洒落っぽい「瞬き」という対照的な曲ではあるけれど、『United Cover 2』が好きではない僕にしてみれば、またこの2曲をやるの?と少々げんなり。
人気の『ブラタモリ』関連という事で、最近の陽水にとっては欠かせない曲となっているのかもしれない。
げんなりしつつも、「瞬き」の女性ヴォーカリストとの掛け合いとか、印象には残ったよね。段々と「悪くないかも」と思える様になってきた。

ここで、高齢者ライヴにとっては欠かせないものとなってきた、15分の休憩。

休憩が終わって出て来たのは、陽水と、2人のギタリストで、3人のアコギ演奏によるアコースティック・コーナー。
これも前回のライヴと同じ構成だね。

始まったのは、聴いた事あるけどなんだっけ、なんだっけ、と結局曲名を思い出せなかった「かんかん照り」
マイナー・メロが僕好みで、初期の作品だとはわかってたんだけどね。

そしたら、なにか聴きたい曲はないですか?と、陽水が客席にリクエストを募る。
バンド演奏だとリハーサルが必要なため、そうもいかないが、アコースティック演奏なら、自由に曲をやれますよ、と。
客席からあちこちで挙がった曲名に「いっぺんに言われてもわかんない!」と一喝した後(笑)、挙がった曲の1つ「Tokyo」をちょっとだけ歌った。

そして「Just Fit」
これも、前回のツアーのアコースティック・コーナーでやった曲だから、よほど気に入ってるのかもしれない。
僕が持ってるCDのアレンジだと、派手なサウンドなので、それをアコースティックでやるとなると、とても不安になったのだけれど、これが意外にいいのだ。アコギ3本でも、とても迫力があってスリルに満ちた演奏で、バンド・サウンドに負けてない。
後半、陽水がシャウトするんだけれど、その時の陽水の口はあまり大きく開けられてないのに、ものすごく大きなシャウトが聴こえてきて、そのアンバランスさに、一瞬、これって口パクなのか?と思ってしまったほど。
この演奏形態で口パクができるはずもなく、改めて、陽水のヴォーカリストとしての底力を見た気がした。

いい席だから、音も良く聴こえるのかなと期待してたけれど、前半は思ってたよりいい音に聴こえず、陽水のヴォーカルが演奏に負けてて聴こえ辛かったのだけれど、休憩後の後半から、ちょっと変わってきた。
音量調整がうまくいったのか、それともアコースティック・コーナーだったから余計にそう感じたのかもしれないけれど、この辺りから、陽水のヴォーカルがとてもよく響くようになってきた。

アコースティック・コーナーが終わって、他のバンド・メンバーが登場してきて準備をしている間に、陽水がさりげなく何かを歌い出す。
なんの曲かと思ったら、ビートルズの「I Call Your Name」だった。
バンドの準備ができた所で、再開。

初めて聴いた時は良さがわからなかったけれど、聴く度にだんだんハマってくるのが「リバーサイド ホテル」
生の演奏で聴くと、より良い味わい。相変わらず、「金属のメタル」がいい味出してる。

大好きな初期の名曲「限りない欲望」
白い靴、青い靴、結婚相手と、その限りない欲望と選択、道徳の教科書で読んだ話を思い出す歌詞も大好きで、今回のライヴで1番感動したのがこの曲だな。

この曲、聴いた事あるようなないような、馴染みのない曲なんだけど、なんだろうと思ってて歌詞に耳をすませてたらわかったのが「嘘つきダイヤモンド」
これもオリジナル・アルバム未収録のロックな曲で、持ってない曲のはずなんだけど、どことなく聴いた事がある気がするのはなんでなんだろう。

陽水サイドとしては、おそらくこれで1番盛り上がってほしいんだろうなと思える「氷の世界」
これも前回のライヴでも聴いた代表曲だから、ライヴ定番曲と言っていいんだろうね。

さて、盛り上がる曲が続いたので、そろそろしっとりとしたバラードが来る頃...たぶん「結詞」か「つめたい部屋の世界地図」、どちらか...願わくば両方とも聴きたい!と思ってたら、始まったのは「長い坂の絵のフレーム」
いやあ、これも大好きな曲なんだけど、期待してたのは「結詞」か「つめたい部屋の世界地図」で、それらを聴く気まんまんだったから、それらが聴けないとわかったショックで、なかなか「長い坂の絵のフレーム」が頭に入ってこなかった。
それに、この曲、前回のライヴでも聴いたんじゃなかったっけか、どうだったっけか、という事が気になって気になって、じっくり曲を味わう事ができなかった。
それでも曲の終盤、僕に落ち着きを取り戻させたのは陽水の声だった。もうこの辺りになるとヴォーカルも絶好調で、あの陽水の脳みそに直接響いてくる声をまた体感させられた。ビンビン来たよ。
でも、初めからこの曲をやるかもと知っていれば、期待と余裕を持って聴けたのに、と思うと少し残念。この曲を堪能できた時間は僅かだった。

さて、この次は本編最後として「勝者としてのペガサス」だ!
と思ってたら、陽水はステージから去っていってしまった。
つまり、本編終了。
えええ~っ、「勝者としてのペガサス」やらないの~!?
これには茫然。
この曲は、前回のライヴの時にも聴けると思ってて聴けなかったから、今度こそはと思ってたんだもの。
前日、同会場で行われたライヴでは「つめたい部屋の世界地図」も「勝者としてのペガサス」もやってたので、これは来る日が悪かったのか...と、大きなショックを隠せないまま、客席からのアンコールを求める拍手を聞いていた。

アンコール1曲目は「アジアの純真」
前回のライヴでは「渚にまつわるエトセトラ」をやったので、それに引き続いての奥田民生コラボなので、あのコラボは陽水も気に入ってたんだなあと嬉しくなる。
でも、オリジナルのPuffyのE.L.O.的サウンドとはまるで違うアレンジなので、どことなくじれったくもなったりする。

そして、先日シングルがリリースされたばかりの「夢の中へ」
これはやらないわけにはいかないのだろう。
個人的には、それほど好きではないので...。

そして、アンコール最後の曲は、また「夏の終わりのハーモニー」なんでしょ。アンコール3曲は固定されてるの知ってるから!
と思ってたら、何やら重たいサウンドのイントロが。
これは「夏の終わりのハーモニー」をやるような雰囲気ではないぞ...。
始まったのは「傘がない」だった。
最後に来てサプライズがあった。
なるほど、そう来るかあ。
「夏の終わりのハーモニー」で、爽やかに締めるのかと思ってたら、「傘がない」で、どんよりと重たくしてライヴ終了。
かなりヘヴィなバンド・サウンドだというのに、陽水の弾くアコギの音がはっきりと聴こえてきたのも意外で印象に残った。
前回のライヴとは違う余韻を残す事となったのはとても良かった。

期待してた曲は聴けなかったけど、静かな感動を味わえたライヴ

終わってみれば、全21曲中、前ツアーと同じものは8曲あった。
これを多いとみるか少ないとみるか。
陽水には名曲がたくさんあるから、すべての曲を入れ替えてもいいくらいだと思っていたけれど、まあ、ポール・マッカートニーなんて、最近は半分以上は同じ曲だし、それを考えると、ベテランのアーティストにセットリストの大幅変更を求めるのは間違った事なのかもしれない、とも思う。
だけど、ヒット曲とか、代表曲をライヴの定番曲とするのならわかるけど、陽水の場合、なんで地味目のこの曲をまたやるの?ってのが多いから、あんまり納得いかない(笑)。

それに、今回のライヴにあたって、期待してた「結詞」「つめたい部屋の世界地図」「勝者としてのペガサス」、なんと全部やらなかったという大きなショックもあって、しばらくは立ち直れなかった。

まあ、それでも、全体的に考えると、今回のライヴのセットリストは、前回よりも満足いくものではあった。
それに、初めにセットリストを見た時は、通好みの選曲だなあと思ったけれど、よくよく調べてみると、全21曲中、11曲が『GOLDEN BEST』収録曲だった。これだけベスト盤の曲からやってるという事はつまり、実はベスト・ヒット・ライヴだったとも言えるわけで。
そう考えると、いろいろと納得のいくセットリストだったなあ、と思える。

それに、気になってた「長い坂の絵のフレーム」は前回のライヴではやってなくて、今回が初聴きだったとわかって、後になってじんわりと効いてきた。良いものを聴けたんだなあと。
そう思うと、「結詞」や「つめたい部屋の世界地図」が聴けなくても、これが聴けたんだから、まあ良かったかなと思えるようにもなった。

とにかく、席も良かったし、全然眠くならなかったし、静かな感動を味わえたライヴで、いい思い出になった。
だけどだけど、陽水にはまだまだ生で聴きたい、やってくれてもいいだろうと思える曲はたくさんあるので、次のツアーもまた絶対に行こうと思ったのだった。

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