宇多田ヒカル Live@日本武道館 2004.2.10 感想

『ヒカルの5』 最終日

2004年2月10日@日本武道館

ライヴ当日。会場へ

2度目となる今回は、開演時間を過ぎてもすぐには始まらないとわかっていたため、悠然と構えて武道館に到着。ちょうど開演予定の7時頃だったかな。
開演間近だったためか?カメラチェックなし。煩わしくなくてラッキー。

僕の後ろを歩いていたカップルの会話が聞こえてくる。
「○○さんは宇多田ヒカルのライヴは2回目なんですよね?」
敬語で問いかける女性。恋人同士ではないっぽい。
「うん。そう。千葉マリンに行ったんだけどね。宇多田のライヴは面白いんだよ。歌だけじゃなくて、めちゃくちゃしゃべるし。ものまねコーナーとかもあって。今日も楽しいライヴになると思うよ」
力説する男性。しかし悲しいかな、今回のライヴはそうじゃなくて、あまりMCないんだよね。「歌中心ですよ」とツッこみたくなるのを我慢。

今日の僕の席は、2階西スタンド・N列8番。
前回同様B席ではあったものの、ステージ後方の北東や北西ではなく、今回は西スタンド。ステージの真横にあたり、2階席のほぼ真ん中の列。B席の中でも良い位置と思われる。
しかも僕の好きなハジ席(通路脇)。僕にとっては相当の「当たり席」だ。
前回はステージを右側から眺める北東スタンドだったが、今回は反対側...ステージを左から眺める西スタンドだ。

今回、周りをザッと眺めてみると、観客の男女比は半々くらい。
おじさん、おばさんと言える年齢層の方も目に付く(30代も立派なおじさんじゃん、とツッこまないように。50代くらいの方々もいた、という事だよ)。
年齢層の幅広さに、あらためて宇多田の人気に気付かされる。

ライヴは、回を重ねる毎に評判が上がってる模様。
僕が観た初日の出来は、正直「イマイチ」だったが、ネットでの評判を読むと、日曜の公演(4日目)は「完璧だった」の声多数。
宇多田本人が慣れてきた事もあって、随分とよくなっているそう。「音響」の面でも改善がみられた、との事。
完璧...とまではいかなくても、初日よりどれくらいパワーアップしてるのか、期待は高まる。

ライヴのスタート

予定時間より約10分遅れて暗転。お。この前より早いぞ。

01. 光
02. traveling
03. Letters
04. Another Chance
05. In My Room
06. Can You Keep A Secret?
07. Addicted To You
08. SAKURAドロップス
(サングラス)
09. 甘いワナ
10. Movin’ on without you
11. 蹴っ飛ばせ!
12. Wait & See
13. Colors
14. First Love
15. Deep River
16. DISTANCE
17. 嘘みたいな I Love You
18. Automatic
(Encore)
19. 幸せになろう
20. B & C

前回同様、パッとライトに照らされたと同時に、「光」を歌い始める宇多田に歓声があがる。
初日は青だったが、今回は真っ赤なワンピースだ。今回の色の方がかなり見映えがするぞ。
そして肝心の「音」。
初日は全体的にモコモコしていて小さな音量、ヴォーカルなんてものすごく聴き取りにくかったのに、今回ははっきりと聴こえる。音響の改善がはかられた、という話は本当だった。楽器ひとつひとつの音がしっかりと聴こえてくるのに、決してヴォーカルを潰さない。いい感じだ。
何よりも、宇多田自身、しっかりと声が出ている。初日は「久し振り」の影響が出ただけであって、ヴォーカルそのものは悪くはないと思っていたのだが、こうして聴き比べてしまうと、雲泥の差、と言ってもいい。
ハンドマイクに持ち替えて、歩きながら歌う様にも余裕たっぷり。まったくヴォーカルがブレることがない。

2曲目、「traveling」のイントロが流れると大歓声。
間髪入れず宇多田が、
「YO!YO!YO!用意はいいか~?よーし行くぞ~っ!!」と煽りを入れる。
ますますヒートアップする会場。おお、初日はこんな煽りなかったぞ。盛り上げ方がわかってきたじゃないか。
この曲の注目ポイントは2つ。
「♪ 目指すは君」で振り返りながら指差す仕草。カッコいい。
「♪ 若さ故にすぐにチラリ」で、スリットの部分をパッと払う仕草。艶っぽい。
今回はどちらも見逃さなかったぞい。

初日ではハプニングがあった「Letters」も、何事もなく進行する。
それにしても、ヴォーカルが際立って聴こえる。伸びやかで丸味があり、しっかりとしたハリもある。前半のベストはここだったかもしれない。
やっぱり宇多田は歌上手かったんだな。

初日は「おとなしめだなあ」と感じた「Another Chance」、しっかりとリズムにのって力強い。優雅でもある。これほどまでに違うのか。

ドラムとベースの低音が心地良く響いた「In My Room」
ステージ横の階段を上がり、スタンド客の近くに来ると、今回は僕の席からでもハッキリと表情が見て取れる。
DVDで観た前回のツアー映像はまだまだ子供、って感じだったけど、こうして今の宇多田を間近で見てみると、さすが大人になったというか、たしかに色っぽくなった。ま、考えてみれば、結婚もしたんだもんね。

ここで1回目のMC。
「よ~っ!」
「よーこそ!ヒカルの5、最終日!!」
「そう、今日で最後なんだ、ってのが信じられなくて...なんかイヤだよぅ。」
「今回、10日間武道館を借りてて、明日返さなくちゃなんないんだけど、返したくないよ~っ!」
「考えてみたら、起きてる間は、家にいる時間よりもここにいる時間の方がずっと多くて...ステージもだいぶ慣れてきて、ここにあるキズとか、そこにあるキズの位置とかも覚えちゃって...キズだけじゃなくて、歌声や音とかも武道館に染み込ませてやるんだ、って思ってるんだけど...もちろん、みんなの心にもこの歌声を染み込ませてやるからね~っ!」
初日よりも長目になったMC。

大歓声が消えぬうちに始まった「Can You Keep A Secret?」
すごくダンサブル。あれ?この歌って、こんなにファンキーだったっけ?という感じ。

今日のヴォーカルは低音もOK。
「Addicted To You」でもうまく低音をコントロール、響かせている。

「SAKURAドロップス」は、ステージ上に描かれた(ライティングされた)桜の花びらがとっても綺麗。思わず見惚れ、聴き惚れる。

リハ映像の「サングラス」をはさんでの後半。
銀のスパンコール衣装で登場の宇多田。
「甘いワナ」で印象的だったのは、バンドのノリ。各メンバーが顔を見合わせながら演奏したり、気持ち良さそうに上を向いて陶酔しているキーボーディストなど、全員がすごく楽しそう。演奏がノッてきたなあ、というのがヒシヒシと伝わってきた。

前曲から間髪入れず始まった「Movin’ on without you」がカッコ良かった。
この曲が一番キーが低いのかな...Aメロはかなり低音になる。初日は、このAメロはまったく聴こえてこなかったんだけど、今回はちゃんと聴こえる。といっても、歌詞まで聴き取れる程ではなかったんだけど、メロディは聴こえてきたから、やはり初日よりずっといい、ってわけだ。

アップテンポの曲が続くためか、バンドのノリはさらにアップ。
「蹴っ飛ばせ!」なんて、かなりパワーある演奏だったなあ。大好きな曲、という事もあるけど、聴き応え充分だった。

しかし、バンドのノリが良すぎたのが災いしたか、調子に乗りすぎたのか、ややスローで重厚な「Wait & See」では、宇多田のヴォーカルを食ってしまった感も。
でも、最後は宇多田、バンドが共にジャンプで曲を締めてうまくまとめた。

客席からの「Hikki~!」の声に、「呼んだ~?」と応える宇多田。
「なんだ?この感じ...今の私、変かも」
「なんと言ったらいいのかわかんないんだけど、今日はもっとやるぞ~っ!!」

「Colors」
初日では、サビに入る瞬間の間が、ちょい早めだった事が気になったものだったが、今回はバッチリ。スパッとカッコ良く決まる。細かい事だが、ちゃんと調整された事に感動。

そして、「First Love」「Deep River」といった連続バラードでは、やはりヴォーカルの存在感がくっきりと。
ここは黙って聴き惚れるしかないでしょ。

せつなくしっとりしたモードが終わって「DISTANCE」になると、リラックスしたムードが漂い、気持ちいい空間に。
先ほどまでのバラードから「いい意味で」解放され、穏やかな空気が会場を包む。
宇多田の長所でもあるハスキーボイスが最大限に発揮される。うーん、上手いなあ。

そして、再び気合いを入れるかのように、「ハッ!」と掛け声で始まった「嘘みたいな I Love You」
重厚なギターサウンドと力強いリズムに負けじと、宇多田もヴォーカルを繰り出す。

「よ~!みんな~!」
会場中を見渡しながら、一言一言を噛みしめるように、言葉を出そうとしてる宇多田。
「何言ったらいいかわかんないんだけど....。」
「(客席からの、モノマネ!の声に)モノマネはやんねーぞ!そういう気分じゃねえ!」
「次の曲が最後になるんだけど...気の利いた事が言えなくて...。」
「気の利いた事は言えなくても最後の曲だ、行くぞっ!」

そうして始まった本編ラストの「Automatic」
直前のMCのせいもあるかもしれないけど、今日のベスト・パフォーマンスはこの曲かなあ。宇多田とバンド、そして観客が見事一体になって楽しんでる感じがした。

本編が終了、宇多田とメンバーが引っ込んだ後は拍手、手拍子のリズムが鳴り止まず、当然のアンコール要請。
ようやく再登場するまで、10分ほどかかった。
今度は、オレンジの蛍光色の衣装で、会場が暗くなると、宇多田の衣装が浮かび上がって見えて、会場から歓声。

そして、「幸せになろう」でハプニングは起きた。
イントロなしのアカペラで始まるこの曲、「♪ 何も聞かずに続けて」が、あれ?ちょっとピッチ不安定?と思ったら、
「♪ これがしあわせなら...」の所で感極まって歌えなくなってしまった。
久々のライヴ、最終日、アンコール、いろんな事が頭をよぎったのだろう、「しあわせ」という歌詞にたどり着いた瞬間、言葉が出なくなってうつむいてしまった。
驚きと共に、もちろん観客席からはがんばれコールと大拍手。
少し固まった後、照れ隠しか、笑いながら「ちょっと待っててね」と言って、一旦舞台袖に下がる宇多田。
すぐに戻ってきて、「今度はちゃんとやるぞ!」で歌い直すと、今度は見事復活。
初日のこの曲は、会場に来ている観客全員に向けて「幸せになろう」と歌いかけているようだったと感じたけれど、今日は、「私は幸せだよ」と歌ってるようにしか思えなかったね。
そして、ラストのリフレイン、「♪ 両手でしっかりと...」を搾り出すように歌った後は、また感動で言葉が出なくなってるようだった。
今日のライヴがDVDでリリースされるとしたら、間違いなく名場面、だね(笑)。

「ごめんね。こういうつもりじゃなかったんだけど...」
「吸ってー、はいてー(深呼吸)」
「こないだミスチルの桜井さんと対談した時、ライヴで泣く事なんてないですよね~、なんて言ってたんだけど...あー、前言撤回。」
「前の日に、最後のMCではどんな事言おうか...とか、いろいろ考えてたんだけど...このまま続けてると泣いてしまいそうだから、ええいっ、ここでメンバー紹介にいっちゃうぞ!」
と、元気良くバンドのメンバー紹介に移る。
初日は、「決まりごとですから」的な流れ作業風な感のあったメンバー紹介も、今回は最後という事もあってか、丁寧に、各メンバーにコメントを贈る宇多田。
紹介を受けたメンバーも、感極まってた宇多田を励ますかのように、おどけたり、派手なポーズを取って笑わせたりと、和やかなムードを作っていた。
ギタリストたちがピックを客席に投げるのを見て、
「あ、投げちゃった...初日は豆まきしちゃダメ、って言われたくらいだけど、これは大丈夫だよね??」と宇多田。
そして、メンバーだけでなく、舞台スタッフ、音響スタッフ、照明スタッフ、警備スタッフ、と、「すべての裏方さんに拍手を」と感謝の意を表す宇多田。
初日と随分違って、いいメンバー紹介だったね。

「私の曲は悲しいのとか、暗いのとかが多いんだけど、この曲は珍しく明るい歌詞の曲で...だからライヴで歌うのがすごく好きなんだ」と、ラストの「B & C」を。
僕も、今まではどうって事ない曲だと思ってたけれど、ライヴで聴いて、すごく印象が変わって好きになった曲。ホント、前向きでいいよね。

歌い終わって、ステージ前方にメンバー集合、全員で手をつないで歓声に応えながら、
「青春だなあ」と宇多田。
「ありがとー」
「外は寒いから、みんな気をつけて帰れよ~っ」
「今日、遠い所から観に来てくれたみんな、今度は私が遠い所まで行くからね~っ!」
そう観客を気遣いながら、上機嫌でステージを去る宇多田であった。

初日と最終日ではこんなに違うものか。素晴らしい夜

ハプニングがあり、メンバー紹介もじっくりやったせいか、始まったのは初日より5分早かったのに、終了したのは10分遅い9時30分。
まあ、なんというか、とにかく、初日と最終日ではこんなに違うものかと、すごく実感させられたライヴだった。
今日が94点くらいの出来だとしたら、今思えば初日なんて...67点くらいだもの。
初日を観た人が可哀相...とまでは思わないけど、かなり印象は違うよ。同じチケット代でも随分差があったよなあ、と思っちゃう。
すべてのアーティストがそうとは限らないだろうけど、やはり初日は避けた方がいいのかな、と思ってしまった。

まあ、今回は、僕自身、観るのが2度目で余裕があったから、いろんな面を楽しむ事ができた、ってのもあるかもしれないけど。
でも、「とりたてて大ファンでもないのに、2度も行くなんて...」と自分でも思ってたけど、この最終日は、ホント行って良かったと思うよ。
ミスらしいミスもなかったし、最後の涙は、あれはあれで良し、だし、充分満足。
素晴らしいライヴだったね。

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