ポール・マッカートニー おすすめアルバム・レビュー集 (70年代) Vol.1

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『McCartney』

ポールのビートルズ脱退宣言のわずか1週間後に出された1stソロ・アルバム。
ポールが自宅にてほぼ一人で仕上げてしまったというこの作品は、やはりかなり「ラフ」な印象を受ける。
完成途上とも言えなくない状態の楽曲たちが並び、ちょちょいと遊んでみました、ってな感じ。

でも、みんながポールに期待してるのはその程度ではなかった。
「あなたはあのポールでしょう?あなたが力入れればものすごいものを作れるのを知ってるんだよ?どうしてこの程度で終わらせてしまうの?」という事で、発表当時は相当叩かれたらしい。

ただ、普通にビートルズ好き、ポール好きにとってみれば、このアルバムを聴いて、「悪くないな」とは思うはず。
たしかに、あっさり仕上げられてしまった感はあるにせよ、ポールの持つ才能の一端は充分に感じとれるからだ。

リンダに捧げた「The Lovely Linda」で優しく幕を開けるこのアルバムだが、なんと言ってもプッシュしたいのは「Junk」
この曲の持つ悲しさ、寂しさ、切なさ。こういう曲を聴かされたら、ポールを支持せずにはいられないではないか、とも思う。

それから、「Everynight」
この曲のサビでの、ポールならではの心地良いハミングは素晴らしいじゃないか。

隠れた名曲として推したいのが「Man We Was Lonely」
明るいAメロ(サビ)から一点、Bメロでマイナーになる所はキュンと来る。男でも愛おしく感じちゃうよ。

そして、このアルバムで一番人気があるであろう「Maybe I’m Amazed」
ピアノ弾き語りのバラードで、途中からはギターも激しくなり、ポール得意のシャウトも炸裂。

インストが5曲もある事も、マイナスなイメージを出しているのかな。
ちゃんと歌詞も考えて完成させればもっと良くなったはずなのに...手を抜いたな?みたいにとられちゃったんだろうね。
でも、そのインストだって、決して悪いものではない。
「Valentine Day」「Momma Miss America」あたりはカッコいいよ、ホント。

結局、ポールの才能をわかってるだけに、常にかなりのレベルを期待されちゃうんだな。
考えてみれば、それって辛い事だよね。ちょっとやそっとじゃ満足してもらえないなんて。
もちろん僕も、このアルバムを初めに耳にした時はそう思った。
「いい素材」はあるのに、どうして完成品になるまで仕上げないで出しちゃったんだろう、もっと作りこめばいいのに...って。
でも、最近は、これはこれでアリだよな、と思うようになった。素直に。
こんな音もいいじゃない。これもポールらしいよ、と。

(2024.8.16)

『Ram』

ポールは何故、音楽的には素人だったリンダと共にアルバムを作ったんだろう。
そしてその後自分のバンドに入れたんだろう。
ジョンに対抗するため?
そんな単純な理由じゃない...よね?
真意はともかく、名義がポール&リンダ・マッカートニーとなっているように、前作にも増してリンダのコーラスを取り入れてリンダの存在感をアピール、二人で作ったアルバムを意識させた仕上がり。
たしかにリンダの声、耳に残ります。

しかしこれはもう大名盤。
前作に比べ、ポールもかなり気合いを入れて作ったのだろう。素晴らしいメロディがそこかしこに並べられている。
サウンドも、前作のようなアットホームな温かみを残しつつ、曲によってはオーケストラを使用するなど、全体的にはラフな印象を受けさせない仕上がり。
やっぱりポールは凄いよな、って訳で、ポールのソロの中で一番好きなものを挙げろと言われたらコレになるのです。

「Too Many People」「3 Legs」は、前作を踏襲するかのように、割とリラックスした感じで始まるのだが、
ウクレレの響きが印象的な「Ram On」あたりからグッと引き締まってくる。
寂しげなメロディといい、アルバム後半で再び登場させてるあたり、前作の「Junk」的な存在か。

つづく「Dear Boy」も大好き。
コード進行、コーラス、ピアノ。そしてポールのヴォーカルも光る。

「Uncle Albert/Admiral Halsey」も人気曲。
しっとりとした「Uncle」からカラッと晴れる「Halsey」への流れが面白い。
それぞれが独立した曲であったとしても素晴らしい曲でありえただろうに、メドレーにしてしまう所もポールの才。

「Smile Away」は、ミドル・テンポのハードなロック・ナンバー。
エフェクトのかかったベース音が曲をヘヴィな印象にしている。

B面に入ると、イントロなしで歌い始める「Heart of the Country」は、とても温かい味のする曲。

ホッとしたのも束の間、次の「Monkberry Moon Delight」はポールが終始テンション高くシャウトする曲で、思わず興奮。この曲も大好きだなあ。
イントロからのリフも印象的でノリが良く、後半はポールがどんどんラリッていく。
あんまりこの曲の事について触れらてれる記事って少ないんだけど。
ハードでヘヴィでポップ。プッシュしたい曲だ。

「Eat At Home」は、軽いタッチのゴキゲンな曲。
この軽さがいいのか、シングル・カットもされた。

「Long Haired Lady」も大作。
この曲のメロディも泣きたくなるくらいいいんだよね。
リンダのノー天気な(?)ヴォーカル・パートのあとのポールが妙に寂しげでさ。ハモりも素晴らしくて。
で、後半は2つのメロディが重なって、どんどん派手になっていく展開。

そして、この大名盤の中での大名曲なのが「The Back Seat of My Car」だ。
これはタイトル(原題)もいい。だから「バック・シート」だなんて略した邦題はキライで、ちゃんと「ザ・バック・シート・オブ・マイ・カー」って言ってほしいんだけど。
イントロのピアノが鳴っただけで、来た来た来た~っ、て感じ。
泣きのメロディから、次第に激しさを増していくという、ポール得意のパターン。
展開もすごいし、よく聴いてみると、コーラスが非常に多彩。
最高に盛り上がって、まさしく大団円の終わり方。

最近は、ボーナストラックで「Another Day」とか入ってて、たしかにこのヒット曲が入る事によって、より作品が映える、CDを買う価値も上がったように思うが(僕もこの曲大好き)、やっぱ『Ram』は「The Back Seat of My Car」で終わってほしいなあ、と思うのです。

(2024.8.17)

『Wild Life』

『Ram』発表後、ポール・マッカートニーはついにバンドを結成。ソロとしてではなく、バンドとして活動していく事を決めた。
そのポールの新バンド・ウイングスの1stアルバムが本作だ。

ポールは、スタートを「あっさり」切るのが好きだ。
力を入れて、万全の体勢が整ってから...というのは好まないらしい。
1stソロの時もそうだった。そしてまたこの新バンドのスタートも。
出来立てのバンドの1stアルバムのレコーディングに費やしたのは僅か3日間。
当然ほとんどの曲が一発録り。
編集も約2週間。
深く考えず。作りこまず。サッと走り出そう...このフットワークの軽さがポールの長所でもあり、短所(だから批判の対象にもなる)でもある。

そんな訳で、当然このアルバムもラフな印象はある。
まだその方向性を模索しているような、手探り感も否めない。
派手さもなく、これといった代表曲・ヒット曲が含まれている訳でもないので、ファンにとっても地味な印象があるアルバムではないか。
しかし、バンド編成という事で、ポールが「一人で責任を負わねばならない」プレッシャーからは解放されて、どことなく楽しんでいる姿も目に浮かぶ。
僕も、初めは確かにあまり興味をそそられるようなアルバムではなかったけれど、何度か聴くうちに、悪くないじゃん、と思えるようになった。

歌詞もいい加減なまま(?)の「Mumbo」でスタート。
軽快なロックで、サビの「♪ フー」というコーラスがクセになる。

「Bip Bop」ではポールのヴォーカルの回転数を変えてある。
ポールは曲に合わせて「自ら」声色を変化させて歌うのが得意なので、このようにテープ・スピードを操作するというのは珍しい。

リラックスした雰囲気のカヴァー曲「Love Is Strange」の後、
動物保護をテーマにしたタイトル曲「Wild Life」ではグッとヘヴィに。
前半のハイライトで、6分を超す大作。

実験的な(?)曲が並んだA面に比べ、B面はポールらしい、穏やかで綺麗なメロディの曲が並ぶ。

「Some People Never Know」も、サビのファルセットのメロディがとても優しい隠れた名曲。

リンダとリード・ヴォーカルを分け合い、リコーダーの音色が印象的な「I Am Your Singer」

コーラス・ワークが心地良いのが「Tomorrow」
「Yesterday」とコード進行が同じだとか、いろんな意味で話題に出される曲ではあるが、そういうのとは切り離して、この曲そのものを楽しみたい。割と「面白い」曲だと思うな。

ラストの「Dear Friend」は、ラストならば当然のごとく(?)ポールお得意のピアノ・バラード。
この曲の適度な重さはすごく好きなんだけれど、もう少し練り上げていったならば、前作の「The Back Seat Of My Car」のような名曲にもなりえただろうに。
そういった意味ではちょっと惜しい曲。
ただ、その【原石感覚】が、このアルバムを象徴していて、「いい」とも言えるか。

オリジナルはここまで。全8曲という曲数の少なさも、印象度としてはマイナスか。
ポール・ファンでもこのアルバムを聴いた事のない、という人はかなり存在していると思われる。
でも、思ったよりいい作品なので(笑)、聴いてみてほしいなあ。

現在CDでは、当時のシングル曲A・B面がボーナス・トラックとして収録されている。
♪ ラララと可愛く歌う子供向け(?)の「Mary Had A Little Lamb」や、
テンポのいいリズムに「♪ オーイエー...」が楽しくなる「Little Woman Love」など。

ちなみに、僕の持っているCDには「Give Ireland Back to the Irish」が収録されてない。
この曲は、シングル曲でもあり、ポールにしては珍しい攻撃的な曲調との事で、聴きたいのだけれど、わざわざこの一曲のためにCD買い直すのはちょっとなあ...。

(2024.8.20)

『Red Rose Speedway』

前作『Wild Life』は、ウイングスの1stとは言え、お披露目的な役割...ともすると、ポールの3rdソロとも言えてしまうんじゃないかという程、バンドしてまとまったものではなかった。
ドサ周り(?)などで経験を重ねた後、次は余裕を持ってのレコーディングで、今度こそはバンドとしてまとまったアルバムを...と思ったら、何故かバンド名が【ウイングス】から【ポール・マッカートニー&ウイングス】という、ポール色を前面に出すものに。
なんで?...まあ、前に出ようが後ろに引っ込もうが、結局はポールのバンド。いいんだけどさ(笑)。

で、このアルバム。
とにかく「My Love」だ。
この曲が入っている、というだけで、大きな輝きを放つアルバム。
じゃあ他にはどんな曲が?と問われたら、あまり浮かんでこない、かもしれないけど(笑)。
「My Love」は、とにかく甘いバラッド。
こういう曲なら、ポールはあまり苦しまずにスラスラ書けちゃうのかなあ。
メロディ・メイカー、ポールの真骨頂。
ヘンリー・マカロック一世一代のギター・ソロも含めて、やっぱこのアルバムの中にあっては一際光ってるなあ、と思う。

で、他の曲は何故目立たないかというと、どうもムリヤリ複雑な事をしようとしてるからじゃないのか?とも感じる。
「My Love」みたいに、素直に行けばいいのに、他の曲は、メロディをひねったり、工夫しようとして、難しくしちゃってる気がするな。
だから、聴き手にすんなりメロディが入ってこなくて、印象が薄めになるという。
ラストの「Medley: Hold Me Tight/Lazy Dynamite/Hands of Love/Power Cut」なんかを聴いてもそう感じるかな。
ちょっとムリしたんじゃない?って。
もちろん、随所に光るものはあるんだけどさ。
でも、うまくこなれてない、っていうか。

だから、アルバム全体のインパクトは弱いので、一度聴いただけではピンと来ないかもしれない。
でも何度も聴いてると、良さがわかってくると思う。
いわゆるロックン・ロールな激しい曲・ノリのいい曲なんかはないんだけれど、ポールの優しい曲が好きな人なら、気に入るとは思うよ。

『Ram』が大好きな人にとっては、思わず嬉しくなる「Big Barn Bed」
ピアノの小粋な弾き語り風な「Single Pigeon」
後の『Venus And Mars』や『Tug Of War』辺りにつながっていきそうな「Little Lamb Dragonfly」
コーラスとアコースティック・ギターの音色が寂しげに響く「When the Night」あたりが好き。
...と、なんだかんだ文句言いながらも、聴いてるうちに段々良く感じてきちゃうもんなんだよね(笑)。

(2024.8.22)

『Band On The Run』

ビートルズを好きになって、ポール・マッカートニー・ソロを好きになって、アルバムを集めていたけれど、僕がこのアルバムを手にするまでには時間がかかった。
もちろん、ポールの最高傑作との評価があるのは知っていたけれど、何せ全9曲と曲数が少ないうえ、ベスト盤やライヴ盤で、収録曲の半分以上は知っていたからだ。
だから、このアルバムを買うのは後回し。
他のアルバムを買う事に専念していた。

で、他のアルバムをあらかた集め終わり、そろそろこのアルバムも持っておく必要があるよなあ、と、思っていた頃。
偶然ラジオか何かで耳にしたのが「Mrs Vandebilt」だった。
「♪ ホッ、ヘイホー」という掛け声とともに、アコギとベースが調子の良いリズムを刻む。
おお、なんだ、こんないい曲があったのかあ、と一目惚れ。
即行でこのアルバムを購入したのだった。

「Mrs Vandebilt」目当てに買ったわけだが、それだけではなかった。
ラストの「Nineteen Hundred and Eighty Five」
これがまた名曲だった。
イントロのピアノからして鬼気迫る感じ。
そしてラストに向けた盛り上がり方もハンパなく、最後は爆発して終わり。
凄かった。
「A Day In The Life」に通じるものがある。
こんな素晴らしい曲があったなんて。
今までこのアルバムを後回しにしてきた事を後悔した。
もっと早く聴いておけば良かった、と。

組曲の「Band On The Run」、最高のロック「Jet」、バラードの「Bluebird」、どれも素晴らしく大好きだし、このアルバムを語るうえで欠かせない曲だ。
しかし、僕にとって『Band On The Run』は、「Mrs Vandebilt」と「Nineteen Hundred and Eighty Five」が入ってる事によって、価値が高まった。
でも、この2曲、ファンの間でも熱く語られてるのを聞いた事がなくて。
何故だろう、人気ないのかなあ。

まあ、とにかく、このアルバムが歴史的名盤である事は間違いなかった。
僕のように、「Band On The Run」も「Jet」も持ってるしなあ、なんて、このアルバムを買うのを躊躇してる人がいたら、迷わず買って欲しいと思う。

(2024.9.6)

ピンチをチャンスに変えた大名盤だけど、これもリリース当初は売り上げが伸び悩んだというのだから驚きだ。
「Jet」「Band On The Run」をシングル・カットすると、それに呼応してジリジリと1位に上り詰めた。
シングルって大事なんだなあと思った。

(2024.6.8)

『Venus And Mars』

バンドの翼は完全に広がった。
「Venus and Mars」から「Rock Show」の素晴らしい幕開け。
「Listen to What the Man Said」を筆頭に、ポップ感覚に溢れた曲の数々に心は踊る。

ノリにノッたポール・マッカートニーは誰にも止められない。
みんなが好きなポールがここにいる。

(2024.6.20)

『At The Speed Of Sound』

「Silly Love Songs」がポールらしい名曲なのは当然として、僕が推したいのは「Beware My Love」
曲の雰囲気が目まぐるしく変わる展開、ポールのシャウト、ぐんぐん盛り上がるロック・ナンバーだ。

それから「San Ferry Anne」
素朴で寂しくも温かみがある小品。

(2024.7.2)

『Wings Over America』

ポール・マッカートニー&ウイングスの絶頂期と言えば、間違いなくここだ。
名盤を連発し、ヒットも記録して、アメリカ・ツアーを大成功させた瞬間。
ポールも、ビートルズに匹敵する手応えを掴んだことだろう。
そのビートルズの曲も含めたセットリストは、ウイングスの魅力を余すことなく伝えるもの。
代表曲をさんざん連発した後、レコード化されてない「Soily」でライヴを締めるというのも、ポールの自信の表れだ。
ドライブ感ある演奏はノリにノッてる。

ウイングスを知らない人に1枚薦めるとしたら、このライヴ盤を推したい気持ちは充分にある。
これぞウイングスだ!というのを感じたい時に聴きたいアルバム。

(2024.7.21)

『London Town』

アメリカを制覇したポール・マッカートニー&ウイングス。
そうなると今度は母国へと回帰した。HOMEへ帰ろう、と。
まずはシングル「Mull of Kintyre」が大ヒット。
しかし、その延長線上でのアルバム作りは、ギタリストとドラマーが脱退、そしてリンダは産休となって、またもやウイングスが危機的状況になりながら続けられた。

「With A Little Luck」「London Town」など、穏やかな曲調のものが多く、言ってしまえば地味。
それまでのイケイケだったウイングスはどこへ?といった感じだ。

「Deliver Your Children」「Don’t Let It Bring You Down」など、デニー・レイン色が強く、スコティッシュ系のサウンドは「Mull of Kintyre」から地続きなのを実感するけど、どうしてその「Mull of Kintyre」を収録しなかったのかなあ。
地味なアルバムという印象に拍車がかかってしまった。

鋭いロック系のサウンドとしては、「Cafe on the Left Bank」が大好き。緊張感に溢れてる。

それからラストの「Morse Moose and the Grey Goose」も、「Nineteen Hundred And Eighty Five」を彷彿とさせるハードな展開だけれども、いささか消化不良気味。

ウイングスとしては絶頂期を過ぎ、やや失速してしまったのを実感する。
英国回帰というコンセプトながらも、あえて「Mull of Kintyre」を収録しなかったこともあって、小さくまとまってしまった要因にもなるけれど、故郷でひと息つきたいよ、というポールの心のうちを愛しくも感じるアルバムだ。

(2024.7.28)

『Back To The Egg』

結果的にコレが、ポール・マッカートニーがウイングスとして制作した最後のアルバムとなってしまった。
ウイングスの活動自体が尻すぼみになって終わった感があるので軽視されがちだが、新しいメンバー2人を加え、新しいサウンドに意欲的なポールの姿が見えて充実している。
前作『London Town』が穏やかな作風だったため、一転して非常に攻めた感じが際立つロック・アルバム。

「Getting Closer」のポップ・ビートは快楽的。
シャウトしながら盛り上がっていく演奏はウイングス絶頂時に負けず劣らず。
シングルとしてあまりヒットしなかったのが不思議だ。

「We’re Open Tonight」はシンプルなサウンドでポールが寂しげに歌い上げる。

「Spin It On」はパンクに影響されたようなスピード感。

「Old Siam, Sir」の怒りをこめたようなテンション高いポールのヴォーカルが久し振りに聴ける。

「Arrow Through Me」はサラッと歌うポール、小粋でお洒落な感じもするAORサウンド。

「Rockestra Theme」「So Glad To See You Here」はピート・タウンゼント、デヴィッド・ギルモア、ジョン・ポール・ジョーンズ、ジョン・ボーナムなど、ロック界の雄が集まり、ロケストラと称して分厚いサウンドを聴かせる。

「To You」もロケストラに負けないキャッチーでノリの良い楽しいロック。

「After The Ball/Million Miles」「Winter Rose/Love Awake」はポールお得意のバラードのメドレー。
様々な顔を見せる展開は流石。

「Baby’s Request」は渋くてジャジー。
温かさと可愛らしさも同居したメロディで、ポールお得意といえばお得意だが、今までありそうでなかったサウンドとも言え、ホッとひと息。

ボーナス・トラックとして「Wonderful Christmastime」「Daytime Nightime Suffering」という2つの名曲が付くことが多く、よりバラエティ豊かな味わいを感じとれる。

一定のピークは過ぎたとも言えるウイングス、次はどこへ向かうかの試行錯誤的な面が見えるのは確か。
パンクやニューウェイヴのような、新しいサウンドを意識しているところも見えながら、あくまでロックの王道を突き進もうとするポールの奮闘ぶりが興味深い。
佳曲揃いでエネルギッシュ。
勢いよく暴れていて、ポールも楽しそうで刺激に満ちている。
とても大好きなアルバムだ。

ポールのアーカイヴ・コレクション・シリーズ、次はコレだと噂されつつ、かなり時が経ってしまった。
ポールの興味も失いかけているのか?
素晴らしい未発表音源や映像が残っていると想像する。
なんとか、リリースしてほしい。

(2024.8.30)

『Wings Greatest』

ウイングスの、というかポール・マッカートニーのレコードを初めて買ったのがコレ。
『ウイングス・グレイテスト・ヒッツ』と謳ってる割に、ポールのソロ名義の曲も入ってるのはどうしてか。
ポールは後に『Wingspan』というベスト盤も出したけど、それもウイングスとソロがごっちゃになってた。
ポールの中ではもう、そういうことなんだろう。

ソロ名義の「Another Day」は素晴らしい曲だけど、それまでアルバム未収録だったから、こうしてベスト盤に収められたのはいいことだとは思うけど。

他にもアルバム未収録曲がいくつか拾われてるのはいいことで、他にも「Live And Let Die」「Junior’s Farm」「Hi Hi Hi」「Mull Of Kintyre」などを収録して、アルバムとして聴けるようになったのは、当時としても喜ばしいことだったのではないか。

特に、僕にとってポイント高いのは「Junior’s Farm」
最初は単調な曲だなあと思ってたけど、急にそのビートに快感を感じるようになって大好きになった。
その頃は、このレコードでしか聴くことが出来なかったから、貴重なアルバムに思えたもんだ。

78年までのポールの代表曲が網羅され、いいベスト盤だと思ってたのだけど、そんなある時、聴き終わったので、レコードをターンテーブルから取り外そうとした時に、手を滑らせて、ターンテーブルの端に直撃させてしまった。
見事にレコードにキズが付いてしまった。
「Silly Love Songs」が音飛びするように...。
こんな失態は初めてだった。

それ以来、このレコードを聴く気がしなくなってしまって。
音飛びするたびに、針を移動させなければならないのはめんどくさくてね。
せっかく好きなレコードだったのに、一気に虚ろなイメージのものに。

いつか、どこかで安く売られてたら、買い直したいと思ってる。

(2024.8.11)

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