2017年10月9日(月)@パストラルかぞ
こんなに近くに来てくれるなら
渡辺美里は、世代的にはドンピシャで、「My Revolution」を聴いた時には「いい曲だなあ、ヒットするだろうなあ」と思ったし、「恋したっていいじゃない」の頃の勢いには身震いもしたんだけど、何故かレコードやCDを買ったり借りたりする事はなく。
もちろん嫌いではなかったのだけど、なんとなく外野からブレイクの様子を見てた感じ。
初めてCDを買ったのは、「虹をみたかい」が収録された『Tokyo』だったのだから、意外と遅めだった。
好意的に受け止めていたけれど、なんとなくハマらないまま時が過ぎてしまった。
僕にとって渡辺美里は、そんなアーティストだった。
それが昨年、とあるきっかけで「すき」を耳にして、ちゃんと聴いてみたいと思ってベスト盤をレンタルしてみたら、予想以上に良くて。
渡辺美里って、いい曲いっぱい歌ってたんだなあ、どうして積極的に聴かなかったのかなあ、と思ったものだった。
とは言っても、そのベスト盤だけで満足しちゃって、オリジナル・アルバムに手を出すのも今さらかなあ、なんて思ってそれっきりだったんだけど(笑)。
そんな渡辺美里が、埼玉にやって来るという。
東京でのライヴだったら、わざわざ行こうとは思わない。はっきり言って、まだそこまでファンじゃないし。
だけど、すぐ近くまで来てくれるというのなら。
ベスト盤しか聴いてない僕にとっては、知らない曲ばかりのライヴではキツイな、と思ったのだけれど、今年やっているツアーのセットリストを調べてみると、「すき」があった。
ほう!「すき」をやってるのか!
その他にも、僕が好きな曲がいくつかあった。
半分以上は知らない曲だったけれど、なんと言っても「すき」が生で聴けるなら...。
だんだんと、行ってみたい気持ちが強くなっていった。
だからと言って、すぐにチケットを獲る事はなかった。
やっぱり、そこまでファンじゃないアーティストのライヴを楽しめるのか不安だったし。
以前の僕は、ライヴが苦手で、よっぽど好きなアーティストじゃないと行かないくらいだったのだから。
チケット代だって、それなりに高いしね。
悩みに悩んだ。
とりあえず、仕事が休めそうな雰囲気だったら、行ってみようかな、という事になり、9月の中旬になって、仕事仲間のシフトの様子を見て、なんとか休めそうだ、という事になったので、ならば、チケット買おうかな、と。
7月から売り出されたチケットだけど、9月半ばになってもぴあでは余裕で余ってて。やっぱりマイナーな会場だからなあ、埋まるのかなあ、と心配になり、これは一席でも埋めてやらないとな、と使命感みたいなものも湧いてきたりして。
ぴあで買っても良かったんだけど、パストラルかぞで行われるライヴのチケットなら、近所の本屋さんでも売っているので、そこで訊いてみて、いい席が残ってたらそこで買ってもいいな、と。
早速そこへ行って訊いてみると、その本屋さんに割り当てられたチケット11席のうち、売れていたのは2席のみで(笑)。
座席表を見ながら、空いている席はこちらです、と言われた場所を見ると、僕の好きな通路側の席があったので、そこでいいかな、と即決、購入したのだった。
「すき」はどうなる?
はたして売り切れるのかどうか心配だったチケットも、10月に入ると、ぴあでは予定枚数終了となり、どうやらだいたいは売れたようでひと安心。
本当はもうちょっと予習をしたかったのだけど、レンタルで取り寄せをお願いしたアルバムが結局届かなかったり、他のアーティストのライヴが続いてしまってて、なかなか渡辺美里モードに入れなかった事もあって、勉強不足のまま、ライヴの日が近づいてしまった。
まあ、仕方ないか、なんとかなるでしょ、と思いつつ、とりあえず、直近の、名古屋で行われたライヴのセットリストを確認してみると。
なんと、「すき」がない。
「すき」がない。
「すき」がない!
どういう事だ??
今年のツアーは、それまでほぼ固定のセットリストで来てたのに、この直近の名古屋のライヴだけは「すき」が差し替わって削除されている。
この日だけが特別なんだよね?
今後のライヴはずっと「すき」をやらない、っていう事ではないよね?
「すき」をやらないだなんて、それでは、僕はなんのためにチケット獲ったんだ。
どうかお願い、「すき」をセットリストに戻して!
そんなわけで、直前になって、非常に不安な気持ちになってしまった。
いったいどうなってしまうんだ、との思いで、ライヴ当日を迎える事となってしまった。
ライヴ当日。実は初めての会場
いつもは、ライヴと言ったら、ちょっとした旅行気分で出掛ける事になるのだけど、今日は近場。
パストラルかぞは、出来てから20年以上はたっているはずで、年に数回は有名アーティストが来るのだけど、僕がライヴを観たいと思うほど大好きなアーティストが来るような事はなかなかなく、今までこの会場でライヴを観る機会は一度もなかった。
なので、新鮮だし、さっきまで家にいたはずなのに、もうライヴを観よう、っていう状態になるのは初めてなので、不思議な感覚で。
僕の席は1階10列33番。
10列目と言っても、1列目だと見上げるくらいの感じだから、10列目くらいの方が逆に見やすいかも思うくらいの近い距離で。
33番というのはいちばん右端の席。でも通路側だから気楽でいい。
会場はほぼ満員と言っていい。よく埋まってくれた。ガラガラだったら切ないもんね。
ライヴのスタート
開演時間の17時を過ぎると、場内に流れるSEが目立ち始め、ストーンズの「Paint It Black」が流れたと思ったら、ザ・フーの「My Generation」の音がだんだんと大きくなっていって、なんだかこれがオープニングみたいだなと思ってたら、そういえばこのツアーのタイトルが『M★Generation Tour』だったという事に気付く。
バンド・メンバーが登場し、場内が暗転。
01. Lovin’ you
02. スピリッツ
03. 虹をみたかい
04. 10 years
05. BOYS CRIED あの時からかもしれない
06. 点と線
07. 跳べ模型ヒコーキ
08. Steppin Now
09. 君はクロール
10. ココロ銀河
11. 今夜がチャンス
12. ムーンライトダンス
13. It’s Tough
14. 恋するパンクス
15. サマータイムブルース
16. ここから
(Encore)
17. My Revolution
18. ボクはここに
19. 恋したっていいじゃない
20. オーディナリー・ライフ
バンドは、ギター、ベース、ドラム、キーボード2人、サックス。
サックス・プレイヤーがいる事で、全体的に艶が出るというか、もしかしたら、アレンジなんかも変わって、印象が違って聴こえる曲もあるかもしれない、と思った。
1曲目の「Lovin’ you」の演奏が始まり、どこから美里が登場してくるのかと思ったら、歌い始めたと同時に、既にステージのど真ん中に美里がいる事がわかった。いつのまにやって来たのだ。
この曲の間はずっとバックライトを浴びていて、歌っている美里の表情がほとんど観えない、という照明演出。
シックな感じで演奏されたバラードだった。
伸びやかで芯の強い、あえて言うとちょっぴり野太い美里のヴォーカル、健在だった。
「スピリッツ」が始まると、客席は総立ちに。
みんな若くはないんだし、こんなマイナーな会場ではずっと座ったまま観る事になるんだろうなと思ってたからビックリで。
僕は初めて聴いた曲だったけれど、一気に総立ちになるくらいの熱い曲で、「チキダンチキダン」って感じの所が印象に残った。
僕が美里のCDを買う動機になった「虹をみたかい」。
これが披露される事も大きかったね。
イントロはオリジナルとは違って、バンドの演奏から始まったので、すぐにはこの曲だとは思えなかった。
という事で、若干アレンジやリズムなんかも変わっていて、ちょっぴり違和感があった演奏だったかな。
ファンキーなロックでカッコいいのは変わらないけど、思い入れがある曲だけにね、よりそう思ったのかもしれない。
これまた好きな「10 years」。
バラードとは言えないかもしれないけど、僕の中ではバラードみたいな感じで、せつなく歌いかける曲。
レコードで2回ほど聴いただけの「BOYS CRIED あの時からかもしれない」。
レコードでは地味で、あまり印象に残らなかったけど、結構ライヴ映えしていて、観客の拳を挙げるレスポンスとか、なかなか良かった。
初めて聴いた「点と線」が、とても良かった。
僕の好きなタイプの曲だった。
この1曲を聴くためだけにCDを買ったとしても、損はないんじゃないかと思えた。いずれなんらかの形で手に入れて、是非また聴きたい。
ここで、『M★Generation Bar』と名付けられたバー・カウンターのセットがステージ左手に設置され、美里がバーのオーナーに扮して、客を迎えるという演出。
今宵、飲みに来たお客さんは、キーボード担当でバンマスでもある奥野さんという設定。
その奥野さんと美里が店でしゃべってる、というコーナー。
全盛期より太った美里はマダム感たっぷり。
こういうテレビ番組あるよなあ、と思いつつ、二人のトークを聞いていたのだけれど、これが結構長い!
初めはすぐ終わるもんだろうと思ったけど、まだ6曲しかやってないのに次の曲やらなくて大丈夫?終演時間遅くならない?ってなくらい長くて(笑)。たぶん15分くらいだったんだろうけど、体感的には30分くらいだった。
まあ、面白いトークだったからいいんだけどね。
単なるMCとは違う、なかなか珍しい演出だった。
そして、そのバーで「せっかくだから1曲やってよ」てな流れで、奥野さんがアコーディオンを持ち、始まったのが「跳べ模型ヒコーキ」。
岡村靖幸が作った曲だけど、あんまり岡村ちゃんぽくないテイストの、正統派なバラードで歌い上げる。
アメリカのスラム街の雑踏から聴こえてきそうな「Steppin Now」。
クールでイケてる。
カッコ良かった。
「君はクロール」は、とても深みのあるバラード。
これもCDとは一味違って、ライヴ映えしてたな。
「ココロ銀河」は初めて聴いた曲だったけれど、これも気に入った!
ちょっとレゲエ風味で、憶えやすいメロディが結構ツボに来た。
これもまたちゃんと聴いてみたいなあ。
「今夜がチャンス」も初めて聴いた曲で、いささかゴージャスな感じの曲だった。
「ムーンライトダンス」は、シングル曲だけど、その割にはちょっと地味な印象だなあ、という感じだったんだけど、ライヴで聴くとまた違った。
Bメロの「♪ Old Fashioned Love Song for You」の所が好き。
サビは「悲しいね」にちょっと似てるかな。
「It’s Tough」は、その名の通り、タフで力強い曲。
レコードで2回聴いただけでは印象に残らない曲だったけど、意外といい曲だったかも、と思えた。
ここでメンバー紹介。
なかでも、力強くも正確なリズムで、いいドラムを叩くなあと気に入っていたドラマーを、「まつながとしや!」と紹介。
まつながとしや?
なんか聞いた事あるぞ。
僕が好きで聴いた、なんらかのバンドに関係してるはず...と。
(家に帰ってから調べてみたら、パール兄弟の人だった!)
で、ギタリストを紹介した直後に、ギターをジャーン!と鳴らして始まったのが「恋するパンクス」。
初めて買ったCD『Tokyo』に入ってて好きな曲だったから思い入れもある。
パンクスというだけあって、ロック・バンドの一体感ある演奏がしっくりくる曲だ。
ギター・ソロも激しく熱かった。
「サマータイムブルース」は、珍しく美里自身が作曲を手掛けていて、なんだ美里、いいメロディ作れるじゃん、もっと作ってくれよ、と思わずにはいられない好きな曲。
ちょっと切迫感もあって、それでいて夏の甘い様な切ない様な雰囲気も伝わってくる名曲だ。
そして。
いよいよ次だ。
本編最後は「すき」が来る所だ。
ちゃんとやってくれるか?
僕にとっては運命の瞬間だ。
ワン!ツー!スリー!フォー!
始まったのは「ここから」。
ショック!
最悪だ!
「すき」差し替えやがった!
あああああああああああああ。
.............。
もう、ここからはショックでね。
「すき」を生で聴けないという事に呆然としてしまって、その事で頭がいっぱい。
せっかくここまでいい感じでライヴを観れていたのに、その幸福感がほとんど吹っ飛んでしまった感じ。
本編最後の曲というのは重要な曲のはずなのに、それを差し替えるかね、普通。
「すき」がセットリストに含まれているからという事で、この曲を生で聴けるのならとの思いでチケットを買ったというのに、これでは意味がない。
無駄な事をしてしまったという思いがムクムクと...。
替わりに始まった「ここから」は、割と最近テレビのCMで耳にした事のある曲で、悪い曲ではなかったけれど、この曲のせいで「すき」が聴けなかったと思うと憎くて憎くて...。
他のお客さんたちも、ここは「すき」のはずだよなあ、と戸惑っているような感じが伝わってきた。
僕の思い込みじゃないはず。
だってみんな、今までのライヴのセットリストが頭に入ってたはずだから。
みんなも「すき」を待ってたはず。
でも...。
そうやって、本編は終了したのだった。
アンコールを求める声や手拍子の中も、僕の頭は呆然としたままで。
アンコール1発目は、これをやらなければ流石にブーイングが起きる、ってなくらいの「My Revolution」。
まあ、さすがに名曲だ。
美里も貫禄のある歌いっぷり。
次は、最新曲の「ボクはここに」。
あらかじめYouTubeで一度チェックはしていた曲で、温かい雰囲気だったけど、もはやあまり頭に入ってこないくらい「すき」削除のショックが!
で、実はこのツアーのセットリストから、最近差し替えになった曲がもう1曲あって。
それまでは、ここで「夏が来た!」をやってたのだけれど、それが「恋したっていいじゃない」になったのだ。
これは理由はわかる。
夏が終わったからだ。
もうすっかり秋なのに「夏が来た!」はないだろう、との事で差し替えたのならば、それなりに理由になる。
え?「サマータイムブルース」はどうなんだ、って?
それは知らん。
とりあえず、「恋したっていいじゃない」は、ポップでアッパーな曲で、僕も思い出のある曲だし、サビの「D!A!T!E!」のレスポンスは盛り上がったから、差し替わってても良かったかなと思うんだけど。
最後の最後は「オーディナリー・ライフ」。
知らない曲だったし、やっぱりずっと「すき」のショックが尾を引いていて、どんな曲だったか憶えてない。
美里の歌手人生の集大成的なバラード?だったかもしれない。
そんな感じで、19時30分、約2時間半のライヴは終了したのだった。
良いライヴだったとは思うが、「すき」をやらなかったせいで
マイナーな会場だから、やって来るのは地元の人ばっかりで、「なんか渡辺美里っていう有名な人が来るらしいから行ってみるべか」的なノリの人の集まりなのかと想像してたけど、全然そんな事なかった。
周りの人の様子を見てると、みんなコアなファンだというのがわかる。
だって、曲が始まる前に、「次はバラードだから座ろう」とか「次はノリのいい曲だから立とう」とか「次はMCだから座ろう」とか、既に何度もこのツアーを観てるからセットリストが頭に入ってるとしか思えない感じのリアクションの人ばかりで、手拍子の仕方だとか、拳の上げ方だとか、美里の大ファンだからこそのノリの良さだった。
想像以上に、関東近郊のファンが集まってきてた感じだった。
僕のような初心者の方が少数派だったはずだ。
第一線からは外れてしまった印象の美里だけど、今でもこういうコアなファンに支えられてるんだなあ、と思った。
会場では、ファンクラブの入会受付をやっていて、それに申し込んでいる人を何人も見かけたし、なんだか嬉しくなった。
ライヴ自体は、演出もパフォーマンスも、素晴らしかった、とは思う。
だけどやっぱり、僕にとっては、「すき」をやらなかったという事実が大きすぎた。
いい場面、いい曲、印象に残るものはとても多くて、いい気分でライヴを観られていたのに、「すき」をやらなかった、というたった1つの理由だけで、「満足した」と言えるものではなくなってしまった。
初めから「すき」をやらないセットリストだとわかっていたら、たぶん僕はチケットを買わなかっただろう。
「すき」さえちゃんとやってくれれば「大変満足した」と笑顔で終われたはずなのに、こんなのって、こんなのって。
あまりにも無念だ、という印象が残ってしまったライヴだった。
悩んだ末にチケットを買ったライヴが、残念な思い出となってしまった、と涙にくれながら家路に着いたのだった。
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