佐野元春 おすすめアルバム・レビュー集 (90年代~) Vol.1

『Time Out!』

それまで、日本の音楽シーンを牽引するような新しいサウンドにするべく、緻密なアルバム作りをしてきた佐野さんだけど。
ここらでひと息、と思ったのかもしれない。
トップスピードで走り続けるのもムリがある。
かと言って、止まるわけにもいかない。
そんな思いが表れてるアルバムではないだろうか。

曲が出来た。
素早くアレンジして明日のライヴで演奏しよう!
そんな思いをテーマに、ハートランドと共有してアルバム作りをしたんじゃないか。
それまでは佐野さんが思い浮かべるアレンジのイメージを具現化していたけれど、今回のアルバムは、ある程度、アレンジをハートランドのメンバーに任せる部分が多かったんじゃないかな。
そのスピード感での曲作りを刺激にして。

「ぼくは大人になった」が、「ガラスのジェネレーション」で歌ってた頃への決別というか、佐野さんも変わってしまった、みたいに捉えたファンも少なくないと聞いたけど。
でも、佐野さんは「つまらない大人にはなりたくない」と言ってたわけで、大人になりたくなかったわけではない。
「いつだって震えが止まらない」とか「とてもいかしてるぜ」と歌われるこの曲。
つまらない奴じゃなければ、大人になるのはいいことだと言ってるんだと思う。

(2024.7.25)

『Sweet 16』

90年代の佐野元春の最重要作と言えばコレだろう。
ポップでカラフルなロックンロールの楽しさを伝えるアルバムだ。
レコード会社も、もう一度社運をかけて佐野元春を売り出そうと力を入れたことも窺える。

先行シングル「誰かが君のドアを叩いている」の疾走感。
イントロのマンドリンと共にビートが弾け、走り出す。
「♪ 光のなかに 闇のなかに」
この爽快な感触に、多くの人が佐野さんはまだまだ若いなと感じただろう。

そして、その若さは10代にまで遡り、「スウィート16」なんて曲も。
ジャングル・ビートにグイグイとかき立てられる。
どこかに出掛けずにはいられない。

このアルバム制作中に、佐野さんは父親を亡くした。
しかし感傷的にならず、むしろ負けていられないとばかりに気合いを入れ直した。
「レインボー・イン・マイ・ソウル」では、
「♪ 失くしてしまうことは 悲しいことじゃない」
と、ポジティブなメッセージに置き換えているのが印象的だ。
この曲があれば、どんな時でも希望が持てる。
そんな風に思える大切な曲だ。

アルバムは明るく、活力に満ちながら進んでいく。

(2024.7.29)

『THE CIRCLE』

前作に比べたら、華やかさや躍動感といったものは薄れ、落ち着いた味わいに満ちたアルバムだけど。
サウンド面で3曲採り上げるとしたら、これら。

「レイン・ガール」
このアルバムの中では、いちばんポップにキラキラと輝いている。
山奥の清らかな川のせせらぎのように。
スプラッシュ・ロックンロールだが、その流れは穏やかだ。

「彼女の隣人」
曖昧な空気感。水辺に石を投げ込めば広がる波紋の様に。
「♪ Don’t Cry」と何度も繰り返されれば、佐野さんが寄り添ってくれてるのを確信し、安心感。

「エンジェル」
レゲエ・タッチで、フワフワとしたリズムに包まれる。
ジョージィ・フェイムのハモンド・オルガンの響きが印象的。
佐野さんの歌声もとびきり優しい。

一聴しただけでガツンと来るようなインパクトには乏しいかもしれないけれど、どれも優しく心の中に浸透し、リズムに身を任せれば、充足感に満ちた安定を得られるアルバム。

(2024.8.8)

『FRUITS』

もぎたての果実を所狭しと並べて、さあ、どうぞ。
カラフルでフレッシュなジャケットのイメージ通り、そこにあるのは、ハートランドを解散させて、新たな領域・サウンドの構築へと向かった新生・佐野元春の姿だ。
とにかく明るく派手で、ポジティブな作品。
『Sweet 16』あたりも明るかったけれど、こちらはさらに輪をかけて。

「♪ いい時を過ごそう」「♪ うれしい うれしい」と歌われる「楽しい時」からして、テンションが高い。

「十代の潜水生活」も身震いするほど明快なサウンドのロックンロール。

「ヤァ!ソウルボーイ」もポップな音像で、心の中のときめきや挑戦を表現する。

これらの3曲のシングルどれもが、明るく愉快な未来へと導いていく。

「僕にできることは」では、自分にできることは何か、考え続けていくことの大切さを教えてくれる。

「すべてはうまくいかなくても」
もちろん、人生うまくいかないことは多くても、明るい未来を信じて。

「経験の唄」では、たとえどんなことがおこっても変わらない想いを宣言する。
そんな強い想いを持てるのは、経験のなせる業なんだろうか。

「水上バスに乗って」では、今もコヨーテ・バンドとして支える深沼元昭との出会いがあった。

「太陽だけが見えている」では、久々にクールなラップを披露。

色とりどりの曲を聴き通して、耳に残るのは、明るいギター・サウンド。
『Sweet 16』の明るさと『The Circle』の内省的な詞が、派手に昇華したようなイメージ。
その流れ、コンセプチュアルなストーリーは、ビートルズの『Sgt. Pepper』を聴いた時の高揚感に似ている。
新鮮なフルーツを食べれば、スカッと生まれ変わったような感覚になる。

(2024.8.24)

『THE BARN』

前作『FRUITS』の参加メンバーを中心に、ホーボーキング・バンドを結成。
そしてアメリカ・ウッドストックへと飛んだ。
佐野さんの強みは、その地の空気感に溶け込んだ音楽を作れること。
ニューヨークでの『VISITORS』しかり、ロンドンでの『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』しかり。
カラフルで明るい『FRUITS』を作ったメンバーで、その世界観を追求する道を行くのではなく、ウッドストックで生まれたアメリカン・ロックを再現する道を取った。
このアイデアはニューヨークにいた頃からあったものらしく、高い演奏力を持ったホーボーキング・バンドを得たからこそ実現のチャンスだと思ったのだろう。

「逃亡アルマジロのテーマ」はインスト。
スパイ映画のような怪しさを持っての逃亡劇。
意外と長い(笑)。

「ヤング・フォーエバー」はこの時期の佐野さんを代表する曲。
地を這うようなバンド・サウンド。
「♪ 君のその心若く」と歌われるロック曲だが、今までのように勢いに任せたものではなく、大人の余裕が感じられる演奏。
若さについて歌えるのも、円熟期を迎えたからこそ出せる音だ。
元々カッコいい曲だけれど、聴く者が歳を重ねてゆくたびに、その味わいも濃くなっていく曲で、生きるエネルギーをもらえるものだ。

「マナサス」のようなメロディ、それまでの佐野さんだったら、もっと鋭角なサウンドに仕立てていたと思う。
しかし、ここでは柔らかな印象を受ける。
スピード感のあるロック曲に必要な緊張感は排し、アコースティックな楽器を前面に出し、マイルドに包み込んだ。

「ドクター」は、佐野さんの声に注目だ。
佐野さんは、プライベートな面での問題もあってか、90年代半ばから、ヴォーカルの質に変調を来たす。
精神的なものもあるのか、それまでのように歌えなくなったのだと思う。
全体的に高音でフワフワした声になっているのだ。
うまくコントロールできないところを補うためか、ファルセットを多用するようになっていく。
この曲は、とうとう全編ファルセットだ。
それもまたこの曲においては効果的で、味が出ているので気付かなかった。
佐野さんのヴォーカルの問題が、実は大きな不安要素になっていくことに。

(2024.8.31)

『Stones and Eggs』

デビュー20周年を前にして、佐野さんがほとんどの演奏とプログラミングを担当して作り上げたアルバム...との情報を受けて、これは佐野さんが1人で作ったアルバムなんだと思いこんでいた。
アーシーなルーツ・ロックの音楽性を持つホーボーキング・バンドとは違う方向性のアルバムを作りたかったのだろう、と。

しかし、ブックレットを確認してみると、多くの曲で、ホーボーキング・バンドのメンバーが演奏に参加していた。
佐野さん1人で作り上げた曲もあるけれど、ホーボーキングによるバンド演奏の曲もある。
バンドが柔軟な形で佐野さんに協力したアルバム、というのが本質だった。

佐野さん1人で、ということがクローズ・アップされるのは、「GO4」「驚くに値しない」など。
先鋭的なヒップホップ・サウンドで、佐野さんがクールにラップを決める曲だ。
特に「GO4」の歌詞には「ガラスのジェネレーション」や「ヤングブラッズ」をはじめ、往年の佐野さんの曲からの引用が見れるのも楽しい。
そんな歌詞の中で、いちばん心に残ったのは、
「♪ 孤独でいるときは10%ラッキー」
ほんのりポジティブになれる言葉だ。

穏やかなジョン・レノンのような「君を失いそうさ」から、カウントが入り「メッセージ」が始まる瞬間にときめく。
ノリの良いポップ・ロックで大好きだけど、佐野さんの声の問題があってか、大半がファルセットで歌われている。
それにより、キラキラして涼し気な印象が強まっているとも言えるけれど。
今の佐野さんだったら、また違う歌い方ができるだろう。

「だいじょうぶ、と彼女は言った」も、詞的なストーリー。
傷付いても、ブランニューディが待っている。
英語の副題でもあるように、
「Don’t think twice it’s over」がテーマだ。

ホーボーキング・バンドの演奏が見事なのが「エンジェル・フライ」
アメリカン・ロックを基本路線とするホーボーキング・バンドならではだ。
里村美和さんのパーカッションの音が生々しく、グルーヴに拍車をかけていて、終えるのが惜しいと思うほどの演奏が続く。

キーボードの音色をバックに、佐野さんが高音でしっとり歌い上げる「石と卵」
アルバムのタイトルでもある、意味深な曲だ。

そして、再びホーボーキング・バンドによるポップ・ロックの「シーズンズ」
猿岩石へ提供した曲のセルフ・カヴァーらしい。
その時の曲名でもあった「昨日までの君を抱きしめて」。
石と卵は紙一重。生まれ変わりもこのアルバムのテーマなのかもしれない。

異色のアルバムのような印象を持っていたけれど、過去の佐野さんからホーボーキング・バンドとの繋がりも、ちゃんとその流れの中にあるアルバムだったんだなと、非常に腑に落ちた。
佐野さんは1人で戦ってたわけじゃない。

(2024.9.15)

『THE SUN』

サウンド的には『THE BARN』のアーシー感に近い。
でもあそこまで土臭くなくスタイリッシュ。
CCCD問題など色々あってEPICから離れて。
ファンに対してもそうだけど、佐野さん自身の羅針盤にもなってるような曲が並んでる気がする。
起伏ある人生をなるべくなだらかにするように。

(2024.5.10)

サックス・プレイヤーの山本拓夫さんがホーボーキング・バンドの正式メンバーになってから生まれたこのアルバム。
佐野さんの音楽では、初期の頃からサックスなどの管楽器が活躍していたけれど。
ハートランド時代のサックスは、佐野さんの若さとエネルギーの爆発を表現するかのように、煽りまくって暴れまわる音色が印象的だった。
でも、このアルバムでの山本さんのサックスは、突発的にテンションを上げるというよりも、より色彩豊かに、心が解放されるような響きとなっている。
佐野さんの成長と共に、サックスの音色も初期とは違った味わいを見せている。
そんなところも、このアルバムの聴きどころだ。

(2024.10.5)

『月と専制君主』

コヨーテ・バンドとしても元春クラシックスの再定義を行なったが、コレも「元春クラシックを現在いまに鳴らせ」というテーマで制作されたセルフ・カヴァー・アルバムだった。

「ジュジュ」はコヨーテ・バンドとしても再定義した曲だったが、大きくイメージを変えるようなことはなかった。
原曲、ホーボーキング、コヨーテと、若干スピードの違いはあるにせよ、いつの時もキラキラと輝いている。

「夏草の誘い」は「SEASON IN THE SUN」というメイン・タイトルが外れた。
ポップに跳ねまくってたナンバーが、オーガニックな肌触りに。

「ヤングブラッズ」はコヨーテ・ヴァージョンとは全然違うよね。
ここでは妖しく、ジャジーなラテン系に。
終盤の演奏はフルートをメインに、インストのように静かに燃える。

「クエスチョンズ」は原曲と比べてルーズな感触に。

「彼女が自由に踊るとき」はゆったり感が増し、よりシンプルなサウンド。
LOVE PSYCHEDELICOのKUMIのヴォーカルをフィーチャー。
特にこれは原曲を超えた感がある。

「日曜の朝の憂鬱」で、さんざん「♪ 君がいなければ」と歌った直後、
次の曲が「君がいなければ」という曲なので、かなり困惑する。紛らわしいなあ(笑)。
ま、狙ったんだろうけどね。

「レインガール」は原曲のようなワルツとは拍子を変え、不思議なノリに。

この後、コヨーテ・バンドがエレキ・ギター・ロック・サウンドを鋭角に極めていくのに対し、ホーボーキング・バンドは、アコースティック・サウンドで大人の余裕をかます方向へと違いが浮き彫りになっていく。
肩の力を抜いて、曲の本質の深みを味わいながら、優雅なひと時を過ごす。 ホーボーキング・バンドとは、そういうものになっているのだろう。

(2024.8.28)

『自由の岸辺』

佐野元春ビルボード・ライヴ。
バックを務めるのはホーボーキング・バンドということで、となると、2018年にリリースした、このアルバムは重要。

「ハッピー・エンド」は、あんなに派手だった『Sweet 16』ヴァージョンとは違って、地を這うようにモコモコしたサウンドに生まれ変わっている。

「夜に揺れて」...知らない曲名だなあ...なんて思っていたが、聴いてみれば、やはりこれは聴いたことあるメロディ。
よく耳をこらすと、あ、これは1stの1曲目「夜のスウィンガー」じゃないか!
この見違えるような変化にはビックリした。
スピード感たっぷりだった曲が、ゆったりとして泥臭いアメリカン・ロックになっている。
これぞホーボーキング・バンドのマジック。

疾走感たっぷりだった「メッセージ」も、ここではアーシーなサウンドに。
ブルース・ハープが雰囲気を盛り立てている。

「ブルーの見解」はグルーヴィーな演奏がクールでカッコいい。
その中で展開する佐野さんのスポークン・ワーズも決まってる。「やあ、ひさしぶり」

「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」は、ゴージャスだった原曲の雰囲気を排して、ここでは各楽器の音が生々しく響く。
ホーン隊ではなく、サックスは単音で豊かに響き、後半の演奏はフルートが先導してグルーヴィーかつスリルあるものになっている。
7分半もあるとは思えない密度の濃い曲に興奮した。

「自由の岸辺」は、89年に出たオムニバス・アルバムでブルーベルズ名義で発表したもの。
そんな佳曲をこうして復活させてくれたのは嬉しい。
やるせない気持ちを奮い立たせてくれるような感じで大好きな曲だ。

「最新マシンを手にした子供達」は慌ただしい展開の演奏で、表情がくるくる変わる。
ハーモニカも印象的に使われている。

「ふたりの理由・その後」は、タイトル通り、ただセルフ・カヴァーするのではなく、続編として新たな世界を生んでいるのが粋だ。

「グッドタイムス & バッドタイムス」は1stに収められていたものは、ギルバート・オサリバンのようなソロ楽曲の意識が高かったけれど、ここではグッとバンド・サウンドになっている。

ホーボーキング・バンドでのセルフ・カヴァー・アルバム第1弾『月と専制君主』よりも、かなりクールで濃いサウンドになっていて大好きだ。
どこかセピア色がかったイメージもあって、珠玉の名曲たちに新たな息吹を与えていることに成功している。
どっしりと地に足の着いたサウンドだ。

(2024.9.9)

『或る秋の日』

コヨーテ・バンドの名を外し、枯れた道をひとり散歩する様なコンパクトなアルバム。
「君がいなくちゃ」という曲がありながら、「いつもの空」では「♪ 君がいなくても平気さ」と強がる。
私的で静かな佇まいが特徴も、最後は「みんなの願いかなう日まで」と願うクリスマス。

(2024.6.6)

『トーキョー・シック』

佐野元春&雪村いづみ。
こんな2人の共演作品があるのは知っていた。
でも、アルバムではないし、ミニ・アルバム...もしかしたらシングルとも呼べそうな形態。
佐野さんの純粋なアルバムではない企画物だから...と、ずっと後回しにしてきた。
サブスクで聴けるのは知ってたけど、聴くことすらせず。

それが、佐野さんがTVに出た時に、この共演の映像が少し流れて、なんだか小粋なジャズを歌ってた。
あれ?なんかいい感じじゃない?

2014年の作品だけど、10年の時を経て、CDが再プレスされるというニュースが入ってきた。
新品が手に入る??
DVDも付いているし、買ってみてもいいかなと。
再プレスと言っても、どこでも買えるわけではなくて、限られたルートでの流通らしい。
AmazonやHMVでは取り扱ってない。
僕はTOWER RECORDSで、ポイントが20倍付く時を狙って注文。

「トーキョー・シック」は、ジャズのビッグ・バンド・サウンドで、佐野さんと雪村さんが楽しそうにスウィングしている姿が目に浮かぶ。
古くからある楽曲のように、馴染んだ演奏と歌声。
佐野さんの抑えた渋みのある声と、雪村さんの転がるような可愛らしい声。
「♪ 世の中嫌なことばかりじゃない」というメッセージが世界を明るくする。

「もう憎しみはない」は『シャボン玉ホリデー』のエンディングに流れるかのような、惜別の感があるバラード。
これも佐野さんと雪村さんのデュエットで、表題曲とは対照的に、聴く者の心を落ちつかせる曲だ。

「こんな素敵な夜には」「Bye Bye Handy Love」は、佐野さんの初期の曲だけど、この企画に合わせてジャジーにアレンジ。
ゴージャスな編成ながらも、小粋で控えめな演奏。
2曲とも、もともとこんなジャズだったっけ?と思わせる自然さだ。

正直言うと、ミニ・アルバムではなくて、この世界観でちゃんとしたアルバムを作ってほしかったところだけど。
でも、雪村さんとの邂逅を経て、ジャズに向き合った佐野さんを楽しめる、小さな贈り物みたいな作品だ。

(2024.8.12)

『THE GOLDEN RING』

どうしようもなく突き動かされるエモーションに従い言葉をメロディに乗せる佐野さんのパフォーマンスを最大限に引き出すハートランドとのライヴ。
ベスト盤と言うには豪華すぎる圧倒的ボリューム3枚組で、次から次へと名曲たちが繰り出される。
エネルギッシュな魂の塊。

(2024.4.12)

『Slow Songs』

バラードを集めた企画盤。
既発テイクだけでなく、リミックスやオーケストラ・アレンジでの再録曲もあったり。
ダンディに歌う佐野さんが新鮮。
お洒落で優雅、落ち着いた気分になれる。
バラードばかりでやや苦手なアルバムと思ってたけど、侮ってた。
ゆっくり味わってツボ。

(2024.4.15)

『No Damage II』

大好評だった『No Damage』の続編ということで、前作以降に出されたオリジナル・アルバム収録曲を中心に制作されたベスト盤。
しかし、前作は3枚のアルバムからの選曲だったけれど、今回は5枚のアルバムを視野に入れないとならない。
選曲は難航を極めたと思う。
だけど僕はあえて問いたい。
どうして「誰かが君のドアを叩いている」を収録しなかったのか、と。

もちろん、言い分はわかる。
アルバム『Sweet 16』がリリースされてからまだ半年も経ってない時点で、その目玉になってた曲を3曲も入れるわけにはいかない、と。
『Sweet 16』をまだまだ売りたい、価値を下げたくないという思いがあったのはわかる。
だけど、「誰かが君のドアを叩いている」はヒット曲だし、佐野さんの90年代を代表する曲のひとつ。
それが入ってないベスト盤なんて、やはり画竜点睛を欠く思いが強い。

当時、佐野さんのベスト盤ということで、僕もちょっと興味を持ったけど、ちゃんと聴いてみたいと思ってた「誰かが君のドアを叩いている」が入ってないと知って、購入を断念したような記憶がある。
この時、ファンになりえそうな人を1人確実に失ってたわけだ。

この『Damage II』は、佐野さんが選曲したとも言われているけれど、『No Damage』に比べたら佐野さんの関与は少なく、実はレコード会社主導で作られたのではないかという説もある。
レコード会社主導となれば、目的としては、「約束の橋」を収録したベスト盤を売りたいがために作られたものだと考えるしかない。

ドラマ『二十歳の約束』の主題歌としてシングル「約束の橋」が再リリースされたのは92年10月28日。
そして、この『Damage II』が12月9日に出ている。
シングルもアルバムも、合わせて佐野元春をヒットさせようという狙いが見える企画なのだ。

もちろん、そのタイミングはドンピシャだ。
「約束の橋」を聴いて、興味を持った人に、もっと多くの佐野さんの良曲を触れさせるにはベスト盤のリリースは最適だ。
それは間違ってない。
でも、副タイトルにわざわざ『Greatest Hits 84-92』と付けるのならば。
だとしたら、尚更、「誰かが君のドアを叩いている」を収録して、ヒット・コレクションの度合いを高めるべきだった。

しかし、結局収録しなかったのは何故か。
単なる代表曲の寄せ集めになることを嫌った佐野さんの意図か。
それとも、このベスト盤を気に入ったら、さらに『Sweet 16』にも手を伸ばしてもらいたいレコード会社の思惑か。

(2024.9.21)

『The 20th Anniversary Edition 1980-1999』

20周年を記念した2枚組ベスト盤。
発表順かと思いきや微妙に違う曲順。
でも20年間の代表曲が万遍なく並んでいる。
99年リミックスやエディット音源になっていて、これまでのファンにも新鮮な音。
ビートに深みと広がりがある音で、好きなベスト盤。

(2024.5.6)

『GRASS』

20周年記念でのリリースだけど、ベスト盤ではないし、裏ベストと呼ぶのもなんだか違和感。
20周年と言っても、ほぼ過去10年間くらいからの選曲で、そこには佐野さんの強いこだわりを感じる。
新しい疾走感を提示した未発表曲「ディズニー・ピープル」を聴くだけでも元は取れる。

(2024.5.3)

『MOTOHARU SANO GREATEST SONGS COLLECTION 1980-2004』

40周年記念、EPIC時代50曲の3枚組ベスト盤。
佐野さんが選曲し、リマスターされた音は低音が唸りを上げ、瑞々しく奥行きがあり満足。
初心者はまずコレを聴いて佐野さんの偉大さを知ってほしいし、ファンでも何度も聴きたくなる良盤。

(2024.6.9)

『THE COMPLETE ALBUM COLLECTION 1980-2004』

佐野元春がEPICソニー・レーベルに残したアルバム25タイトル29枚組のBOXセットが出ると聞いた時は、ふーむ、くらいの感想しかありませんでした。
オリジナル・アルバムのCDはここ何年かでコツコツと集めて大分揃った感じでしたし、Spotifyとも合わせれば、ほとんどの作品を聴いてはいたからです。
費用対効果を考えると、そこに38500円もの大金を払う気にはなれなくて、僕には関係ない話だな、と思ってました。
お金持ちのファンが、40周年の記念に手に入れるファン・グッズみたいなものか、と。
ただね、やっぱり大好きな佐野さんの作品ですから、欲しいかと問われたら、やっぱり欲しいわけですよ。
ポンとお金を出せる人はいいなあとの思いで眺めていました。

それからは、ネット上で、手に入れた方々の感想を聞く事となるのですが、みなさん絶賛なんですよ。
特に、「音が抜群に良くなった」と。
最新リマスターの効果を挙げる方が多数。
これは羨ましかったですね。
たしかに、40周年記念で出たベスト盤にて、特に80年代楽曲のリマスター効果があったのは僕も実感してましたから、今回は全アルバムとなると、かなりそそられる。
特に、サブスクでちゃんと聴けない『Café Bohemia』や『ナポレオンフィッシュ』なんかは、僕が持っているCDは音がショボくて、CDで聴くのもiPodで聴くのもイマイチな音だなあと思ってましたから、それらも含めて、全アルバムが最新リマスターによって素晴らしい音に生まれ変わってると聞くと羨ましくて。

しかし、今から欲しいと思っても、既にAmazonでは売り切れ、あってもマケプレ出品者によるプレミア価格になっていたので、これはもう...と諦めモード。
買った人は羨ましいな、でも今さら買えないし、どうせ売ってないし、みたいな気持ちで過ごしてました。

しかし。リリースから約1ヶ月がたったある日。
突然、Amazonにて【在庫あり】の表示が。
慌てて見てみると、マケプレ出品ではない、正真正銘のAmazon販売で、しかも5250ポイント付き!
実質15%近い割引と同等で、今まで見た中で、一番お得になっていました。
もちろん、在庫は1点限り。
うおおおおお、こんなお得価格(ポイントですが)で出会った以上、買うしかないんじゃねえかあああ??
38500円は、かなり、かなり痛手ですが、買うなら、今を逃したら、もうチャンスはない、と思いました。
敬愛する佐野さんへのお布施、ここでしないでいつする!

バチーン、と買ってしまいました。
高額な買い物をしてしまった事に対する若干の罪悪感を伴いながらも、商品の到着に歓喜しました。
開封です。

29枚ものCDが入ってるBOXの割には、とてもコンパクトです。ホント小さい。
ダメージ加工の装丁もカッコいい。
BOXにはシリアル・ナンバー入り。遅れて買った割には、意外と若い番号。といっても合計で何セット作られたのかは謎ですが。

これは紙ジャケットではなくて、紙製ジャケットだと憤ってる人もいましたが、僕は紙ジャケには無頓着なので、紙と紙製の違いなんてまったくわかりません。
装丁の統一された25タイトルもの作品がズラッと並んでいるのは壮観で、パラパラパラと一枚一枚めくっていくと気分が高揚します。

『特別版 ハートランドからの手紙』と名の付いた小冊子。
このBOXについてのあれこれを一問一答形式で佐野さんが答えているもので、これはすぐに読めました。

問題は、412ページもあるという解説書で、これはかなり読み応えがありそう。
エピック時代の佐野さんの活動の全記録をまとめたような感じで、これだけで数千円の価値があります。

ブックレットの解説をある程度読んだら。
CDを再生して耳を傾ける。
リマスター効果か、澄んだ音が一段高いステージの上から降ってくるように聴こえる。
歌詞を目で追いながら、歌われてる世界観をじっくりと味わうのが贅沢なこのBOXの聴き方。

正直言って、既に持っていたCDが多いので、内容的には想像が付いてるし、贅沢な買い物だったかなあという気持ちは拭えませんが、佐野さんもブックレットの中で、たとえオリジナルを持っていたとしてもBOXは別物で、思い出の詰まった宝物のような感じだと言っていて、たしかに、これはファンとして持っているだけで満足感一杯の価値を感じられるモノだと実感します。

とうとう買っちゃった。
このBOXを目の前にすると、自然と背筋が伸び、大切なものを扱う様に慎重になります。
ホント、家宝って感じがします。
ファンとして当然の如く持っているよと、自慢したくなる一品です。

(2024.8.4)

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