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『Driving Rain』

ポール・マッカートニーの作品の中でも、群を抜いて不人気作。
ファンからの不評の嵐がすごい。
だけど。
だけど僕はコレが大好きなんだあ!
当時もあまり話題にものぼらず、ひっそりと、いつのまにか発売という事になってて、ホントに出たの??との不安になりながらショップに行ったのを憶えている。
天下のポールのニューアルバムだぞ、もっと騒げや、と。
しかし、内容については、僕としては『Flaming Pie』の事もあって、不安ではあった。
だがそれでもポール。何をしてくれるかわからない、と期待をこめての購入。
すると、これは見事に期待に応えてくれるものだった。
これぞポールのメロディよ!!
ベースのフレーズで始まり、ハモり、シャウトも聴ける「Lonely Road」でスタート。
こいつがまたクールでカッコいいのよ。初っ端から、「おおっ、これぞポールだぜっ!」と、ぐいぐい引き込まれる。
ポールお得意のバラードも「From A Lover To A Friend」「I Do」「Your Loving Flame」など、健在ぶりを充分アピール。
70年代後半~80年代前半のポールの匂いがする「Driving Rain」も、「♪ ワン・ツー・スリー...」がとっても印象的で、一度聴いたら忘れられない。
ミドル・テンポの「Tiny Bubble」も、親しみやすいメロディ。
『McCartney』や『Ram』時代を思わせる、ほんわかな「Your Way」。
ラフな感じながらもポールらしいスパイスの効いた「Spinning On An Axis」。
マイナーな「She’s Given Up Talking」や、
へヴィな「About You」など、大好きな楽曲は続く。
『Band On The Run』の荘厳なラスト・ナンバー「Nineteen Hundred and Eighty Five」を思い出させる「Rinse The Raindrops」も、ジャム・セッションらしく、緊張感漂いまくり。
10分以上の大作なのに飽きる事はない。
アメリカでのテロ発生で急遽追加された「Freedom」も、静かに力が入る佳曲。
一緒に歌いたくなる。
間奏のギターもめちゃくちゃカッコいい(ライヴではクラプトンが弾いてたが、これはその時のものなのか?)。
と、とにかく、どこをとってもポールなのだ。
全盛期のポールのメロディ。これぞポール!と何度も唸らされた。
ただ、残念なのは、ポールはこのアルバムをサラッと作ってしまったという事。
レコーディングは2週間ほどだったらしい。珍しくイギリスを離れ、ロスのスタジオで若手ミュージシャンをバックに簡単に仕上げてしまった。
あまりあれこれ考えず短期間で集中して作ってしまった方がいい、との考えだったらしい。
実際、そんな短期間でここまでのものを作ってしまうとはさすがポール、と思う部分もあるが、僕としては、これだけの好素材があったのなら、じっくり煮詰めた方が絶対いいものになったと思う。
まず、各楽曲のアレンジが皆同じようで単調。
ジャケットの写真そのままに、モノクロの印象。
ラフな演奏もこれはこれで悪くはないのだが、もっとポールらしく、派手にできるものは派手にしてほしかった。
メリハリ、ってやつがない。
それこそ、この作品をジェフ・リンが担当してたら、もしくはジョージ・マーティンが引き受けてたら。
どんなにカラフルで素晴らしいものができただろうか...と思えてならない。
どの曲もいい曲なので、捨て曲はないのだが、67分という総時間はいささか長い。
アレンジに思考を凝らし、収録曲をふるいにかけて(泣く泣くどれかを削ってでも)、もっと凝縮させたものにすれば、『Band On The Run』や『Tug Of War』等に匹敵するほどの大傑作になってたと確信している。
惜しい、惜しすぎるよ、ポール。
もう力入れるのは疲れたのかい?
まあ、そうは言っても、ここまでポールらしいメロディを復活させてくれた事には感謝だった。
しかし、イデオロギー的なこともあるのか、「Freedom」が日本ではかなり不評で、アルバム全体にもその影響が及んだのか。
悪妻として有名となった当時の妻に捧げた曲も多かったりして、ポール的にも黒歴史な部分があるのかもしれない。
だけど、この時のレコーディング・メンバーが、その後から現在に至るまでポールを支えているバンドとなったし、
このアルバムを引っ提げての来日公演も行われたし。
僕にとっては良い思い出ばかりの大好きなアルバムなんだけど。
でも、今までこのアルバムが大好きって言ってる人を見かけたことないんだよなあ。
誰かいませんか?
(2024.8.25)
『Memory Almost Full』

ポール・マッカートニーのアルバムはずっと集めてきたけれど、05年の『Chaos And Creation In The Back Yard』の時、初めて買うのをやめた。
CCCDだったからだ。
当時はまだ輸入盤を買うという意識もあまりなく、なんとなく手に入れる事を諦めてしまった。
続いて07年にリリースされた『Memory Almost Full』はCCCDじゃなかったものの、よくわからないレーベルに移籍してのものだったし、『Chaos』も買ってないんだし...という事で、なんとなくスルーしてしまった。
ポールへの関心が明らかに薄れていた時だった。
しかし、13年の来日公演を機に、いろいろネットで記事を読んでいると、やたら目につくのが「Chaosは名盤だった」「Chaosは傑作」の文字。
CCCDという事で無視しちゃったけど、そんなに良かったの?と気になってきて。
早速、試聴してみたけれど。
うーん、あんまり良さそうには思えなかった。
でも、ついでにと『Memory Almost Full』も試聴してみたら、こっちの方が良さそうな曲がたくさんあったので、こちらを先に購入してみる事にした。
初めは安い輸入盤にしようと思ったのだけれど、日本盤ボーナス・トラックを聴いてみたら、これが無視できない程のいい感じだったので、日本盤を買う事に。
「Dance Tonight」。
ダン・ダンというドラムのリズムとマンドリンの高い音。時々現れる口笛が印象的。
力が抜けてのんびりした感じ。
イギリスでの1stシングルがこれらしい。
いい感じの曲ではあるけれど、シングルにする程ではないような。
「Ever Present Past」。
こちらはアメリカでのシングル。こちらの方が断然シングル向け。
力強くノリのいい感じが伝わってくる。
行け行けポール!と叫びたくなる。
「See Your Sunshine」。
美しいコーラスに耳を奪われるが、これは何と言っても動き回るベース・ラインが聴き所。気持ちいい。
メロディ自体もとても美しく滑らか。
「Only Mama Knows」。
不安げなストリングスのイントロから突然ギター・リフが入りロック・ナンバーに。
迫力あるサウンドと、ポールらしい馴染みのあるメロディ。
文句なくカッコいい。
前半のハイライトはこの曲だろう。
「You Tell Me」。
アコギとポールのファルセットが物悲しく響く。
切ないバラードだ。泣きたくなるね。
「Mr Bellamy」。
どこか影のあるメロディで、ドラマチックな展開。
「Gratitude」。
単純な構成ながらも、ポールはシャウトしてるし、ベースも響いてくるし、なかなか聴き応えのある曲だ。
「Vintage Clothes」。
なんとこの曲から5曲はメドレー形式。
ポール得意のメドレーだよ。自然と期待も高まる。
メドレー冒頭は華々しい幕開け。
「That Was Me」。
アコギの音が印象的で、ラフな感じ。
でも徐々に激しくなってきて...。
「Feet In The Clouds」。
前曲が激しくなった所で、パッとこの曲に変わりクール・ダウンといったところ。
「House Of Wax」。
ピアノを主体にした重厚なバラード。
この重たさと激しさの同居は...雨の中で演奏してるみたいだな。
空はいつ晴れるのかな的な。
「The End Of The End」。
そしてようやく空に晴れ間が出てきたかのような安心感に包まれるのがこの曲だ。
これもピアノ主体のバラードだけど、前曲との対比が素晴らしい。
間奏のポールの口笛も優しく響く。
「Nod Your Head」。
ドラマチックなメドレーで終わらせてもいいものの、そう簡単には終わらせないところもポールの心意気。
アルバム本編最後に激しいナンバーを持ってきた。
ノイジーなギターにポールのシャウト。
しかし短いのがなんともあっけなくて難点。
「Why So Blue」。
ボーナス・トラック。
この曲目当てに日本盤を買う価値はあると思う。
初めはアコギでの弾き語りという小品かと思いきや、ドラマチックな展開に美メロの応酬。
ピアノのフレーズが気持ちを盛り上げる。
このアルバム、良かったよ。やっぱりさすがポールだね。リリース当時にスルーしてしまった事を反省。
でも、このアルバム、あまりファンの間でも話題になってないようだけど??
ポールは攻めてるというか、かなりの意欲が伝わってきた。
後半のメドレーは、ポールにしては空回りしたような気がしないでもないけど、それでも聴き応えは充分。
もしかしたら、その攻めの姿勢ゆえに、とっつきにくい所はあるかもしれない。『New』ほどポップではないからね。
でも、一筋縄ではいかないからこそ、何度も聴きたくなってしまう。
そして何度も聴いてるうちに、どんどん好きになってしまうし、飽きも来ない。
飛び抜けていい曲というのはなかった気もするけど、言い方を変えれば、どの曲も良かったわけで、60代半ばの人が作ったとは思えないほどのロック・アルバム。
もっと評価されてもいいと思う。
(2024.9.23)
『NEW』

2013年初め、ポール・マッカートニーのレコーディングが終わったとの報道があり、さてリリースはいつかと思っていたら、来日公演決定の直後。立て続けに嬉しいニュースとなった。
まあ僕としては、NEWアルバムのリリースが来日公演のセットリストに及ぼす影響を考えると、いささか複雑な心境ではあったのだけれど。
まずはリード・トラック「New」の音源公開。
ポップでカラフル、「Penny Lane」を髣髴とさせるビートリーなサウンドに、世界中のポール・ファンの期待値が上がった。
そして続けてポールから「今度の作品はバック・トゥ・ザ・ビートルズ・アルバムになるよ」とのコメントがあり、NEWアルバムはかなりの傑作になるのではないかとワクワクさせられた。
「Save Us」。
歪んだギターのフレーズのイントロが印象的なロック・ナンバー。
ノリが良く、キャッチーなメロディも、間違いなくポールのもの。
おお、掴みはOKじゃないか。
ラストにはポールのシャウトが冴えわたる。
「Alligator」。
どこかホーム・レコーディングの味わいのあるサウンドは『Ram』辺りを髣髴とさせる。
アコギ主体のAメロからギターのフレーズがブリッジとなってサビへ。
このファルセットのサビも相当な美メロだよ。
これも大好き。
「On My Way To Work」。
ゆったりとしたアコギの弾き語り調ではあるけれど、意外と力強い響き。合唱向きかも。
「Queenie Eye」。
ピアノの連弾から繰り出されるポップなメロディ。
中間でアカペラになる所が秀逸かも。世界が変わる。
初めはとび抜けてる曲とは思わなかったけれど、後にこれがセカンド・シングルになるとの事で、豪華キャストのMVまで制作された。
たしかにこれもビートリー。アルバムを代表する曲の1つと言っていいかも。
「Early Days」。
アコギの響きが美しくカントリー風。
「Dear Prudence」を思い出したなあ。
「NEW」。
これがやっぱりこのアルバムの核だね。
ポールいまだ健在を大きくアピール。
「Appreciate」。
これは『Flowers In The Dirt』や『Off The Ground』辺りの音作りに似てるなあ。
「Everybody Out There」。
これは大好きな「Mrs Vandevilt」に似ていて、大好き。
徐々に下りてくる感じのメロディが非常にポールらしい。
つい一緒に歌ってしまいたくなるような中毒性がある。
コーラスなんかはまるで絶頂期のウイングスみたい。リンダの声が聴こえる...ような気がする(笑)。
つまりはバンド・サウンドを意識してるのかな。
「Hosanna」。
ちょっとダークでほろ苦い。
これもアコギ主体のシンプルなサウンドながら、ラストは逆回転。
「I Can Bet」。
とにかくサビの「♪ I Can Bet」のメロディが、短いながらも心に残るし、すぐに耳に馴染んで一緒に口ずさめる。
「Looking At Her」。
Aメロをちょっと囁き気味で歌うのが憎い所。
「Road」。
アルバム本編のラストは、憂いのあるメロディにドラマチックな展開。
派手さはないけど、じわりと効いてくる。
カッコいい。感動する。
「Turned Out」。
ここからボーナス・トラック。
アルバムのリード・トラックに負けずにポップなサウンド。
随所に聴けるスライド...というかドブロ・ギターが印象的。
ジェフ・リンのサウンドに似ていると言う人も多い。なるほど。
「Struggle」。
浮遊感のある妖しいサウンドにファルセットのサビ。
遊び心も満載。
「Scared」。
最後にさらにシークレット・トラック。
ピアノの弾き語りというシンプルなもの。
タイトル通り、どこか不安感が漂うメロディ。
寂しい感じでアルバムは終了する。
何度も聴かなければ良さがわからないスルメ・アルバムかも、と言ってた人も多かったけど、僕は何度も聴くまでもなかった。1度聴いただけで気に入った。
アルバムを聴き終えた瞬間、よし、また聴こう、何度も聴こう、と素直に思えた。
どの曲も、ポップなサウンドにキャッチーなメロディ。
1曲だけじゃなく、アルバム全編に渡っているのだから、ポールの才能は枯れてなんかいない。
『Ram』や『Band On The Run』を超えるとまでは言わないけど、個人的には『Tug Of War』辺りに匹敵するかも、と。
それくらいお気に入りだ。
やっぱり音楽は、メロディが美しくなくちゃダメだなあ。キャッチーじゃなくちゃなあ。ポールはそれを徹底してる。そういう音楽を作れるのが凄い。
ただ、唯一の欠点というか、残念な所もある。
それは、ポールお得意のピアノとストリングス主体の大バラードがなかった点だ。
ポールと言えばバラードと言ってもいいくらいなのに、このアルバムにはバラードがなかった。
何故バラードを入れなかったんだろう。謎だ。
大バラードがあったなら、文句の付けようのない、完璧なアルバムとなったであろうに。それが惜しい。
ただ、そこに目を瞑るとしても、やはりこれは傑作だ。
期待以上だった。
(2024.9.20)
『Egypt Station』

サブスクで、気軽に曲単位で音楽を聴くスタイルが一般的になった今でも、ポール・マッカートニーは、あくまでも「アルバム」というものにこだわった。
オープニングとラストに配置された「Station」という楽曲、メドレーなど、今までポールがアルバム作りで得意としてきた形を踏襲している、コンセプト・アルバム。
「Opening Station」。
駅の雑踏の中を思わす音。
そこに、「♪ Ah」とも「♪ Woo」ともつかないコーラスが聴こえてきます。
「I Don’t Know」。
前作『NEW』は大好きでしたが、唯一不満だった点は、バラードが1曲も入ってない事でした。
バラード得意のポールが、アルバムにバラードを入れないなんて、なんとも画竜点睛を欠くというか、物足りなさを感じたのは否めませんでした。
そしたら、今回は、実質オープニング曲となるここに、バラードを持ってきました。
ヴォーカルがいい感じに枯れているのがいいですね。歳を取った今のポールだからこそ出せる味。
ゆったりと、しっとりと。深みのあるバラードで沁み入ります。
「Come On To Me」。
イントロのギターが刻むリズムがポップで、ワクワクしてきます。
この曲から感じるのは力強さです。
前曲から一転、ポールがシャウトします。
中盤、何度か目立つベース・ラインも響き具合が気持ちいい。
「Happy With You」。
ビートルズの『White Album』辺りを髣髴とさせる、アコギを使った小品でほのぼのとさせる、あの感じです。
「Who Cares」。
どこに転がるか分からないサイケなイントロから、カウントが入って、ノリの良いリズムに変わります。体がフニフニと疼く感じ。
単調と言えば単調ですが、それを切り裂くように「♪ Who Cares!」と力が入ります。
「Fuh You」。
イントロなしの歌い出し、トイ・ピアノのような可愛らしい音に導かれ、そしていつの間にか、分厚いサウンドに展開していきます。
サビは、みんなで合唱できるように作られてます。
「People Want Peace」。
Peaceというテーマのせいか、やはり『Tug Of War』~『Pipes Of Peace』の頃を思い出します。
サビはキャッチーでわかりやすいですが、サビ前のメロがシビアでスパイスが効いてる感じ。
「Hand In Hand」。
切ないバラードです。
これは好きですね。こういうバラードを、ポールはサラッと作りそうです。
基本、ピアノの弾き語り風ですが、僅かにアコギも鳴ってますし、フルート(尺八?)も効果的。
「Dominoes」。
流れるようなメロディをポールがささやくように歌ってるのが印象的。
これはドラムが心地良いですね。
終盤は、サイケになります。
「Back In Brazil」。
これも親しみやすいメロディとリズムでお気に入り。
そして何より、唐突に「♪ イチバーン!」と聴こえてくるのがインパクト大。
ブラジルには日系人が多いからとの事で、イチバンという歌詞を入れたそうですが、これは日本語なんだから、「Back In Japan」というタイトルだったら、もっと素直に嬉しかったな。
「Do It Now」。
ポールがとても丁寧に歌い上げる曲ですが、これはコーラス部分がとても印象的。
だんだんとサウンドに厚みが増し、壮大な感じになっていくのがドラマチック。
ラストのピアノの〆方が好き。
「Caesar Rock」。
ポールが、声を潰さんばかりにシャウトして歌ってて、痺れます。
このポールのヴォーカルを堪能できるだけでも価値あり。
「Despite Repeated Warnings」。
前半はバラードですが、途中から、リズムが変わっての二部構成。こういうのもポールお得意ですね。
かと思いきや、またも曲調が変わって三部構成ですから驚き。
切迫感とスリルに溢れた演奏が楽しめます。
そしてまた、前半のバラードに戻っていくという奇跡の展開。
「1985」「Beware My Love」あたりを髣髴とさせる力作。
「Hunt You Down / Naked / C-Link」。
駅の雑踏の中から、ハードなギターが聴こえてきて始まる、正真正銘のメドレー。
曲調としては、ハードなものからミドル・ポップへ、そして終盤はブルージーなギター・ソロのインストになって終了。
「Get Started」。
ボートラですが、どうしてアルバム本編に入れなかったんだ、ってくらいに素晴らしい曲!
2000年代でポールが作ったメロディの中で一番ポップかもというくらい、美しくて好き。
これまた二部構成で、終盤に演奏が激しくなって、ポールがシャウトしまくり。
美メロ、ポップ、キャッチー、シャウト、唸るベースといったポールの魅力に加え、メドレー、リプライズといった、アルバムの旨味を凝縮。
そこに、歳を取ったからこそ滲み出せる新たな魅力も加わって、今までのアルバムとはどこか違う、こういうアルバムは聴いた事がないなあと思わせるような作品。
(2024.12.28)
『McCartney III』

コロナ禍を利用して、一人でアルバムを作る事を選んだポール・マッカートニー。
70年、80年に続く20年という節目の年という事もあり、そのコンセプトが『McCartney』シリーズの最新作となったのだから、偶然とはいえ意味深いものとなりました。
もしコロナが世界を覆ってなかったら、作られる事はなかったであろうアルバム。
実験要素満載で賛否両論ある『McCartney』シリーズなので、あまり期待をしすぎずに聴いてみる事としました。
「Long Tailed Winter Bird」。
甲高いアコギのフレーズが鳴り響くインスト。
途中からハードなギターやベース、ドラムと加わっていくスリリングなロック・ナンバー。
挟まれるコーラス・パートも効果的。
これぞ一人多重録音の醍醐味。
「Find My Way」。
ポップで親し気な、ポールの基本路線。
これがアルバムのリード曲だろうか。正解。
「Pretty Boys」。
アコギをつま弾きながらの素朴なナンバーで、穏やかに語り掛けてくるよう。
「Women And Wives」。
不穏な印象のピアノに導かれる曲。
ポールの声も若い。
「Lavatory Lil」。
ギター・リフがリードする、威勢のいいコーラスが入るロックンロール・ブギ。
「Deep Deep Feeling」。
左右に振られたドラムの音。
不安の闇の中に沈み込んでいくようなメロディとサウンド。
8分超えの長尺で、プログレのように展開していくし、やっと終わりかな?と思わせて、まだ終わらないところも技あり。
「Slidin’」。
ハードなギターで重厚なサウンド。
6~7曲目の流れは、どっぷりと泥沼にハマっていくよう。
「The Kiss Of Venus」。
ハードな展開が続いたので、このアコギでの弾き語りにはホッと一息つける感じ。
「Seize The Day」。
前作『Egypt Station』でも聴かれたようなフレーズがチラッと顔を出すミディアム・ナンバー。
ポップとハードの中間どころを狙った感じ。
「Deep Down」。
またもや不安にさせるような、痛いところを突いてくる感じ。
シャウトする所を含め、ポールのヴォーカル・ワークが堪能できます。
「Winter Bird / When Winter Comes」。
イントロが「おや?」と既視感あると思ったら、1曲目と同じフレーズ。
それに続くのは、温かみのあるメロディ。
優しく穏やかにアルバムが幕を閉じるのは唯一の希望を感じさせます。
期待以上でも以下でもなかった、今のポールならこんなもんかな、といったところなのが正直な感想です。
いい感じの曲はあったけれど、直感的に手放しで大好きという曲は無かったです。
キャッチー、売れ線とは遠い所にありますね(とか言って全英1位獲ったけど)。
1作目のような家に籠ってラフに作った感じもなかったし、2作目のような実験的要素が多かったわけでもないしと、今までの『McCartney』シリーズとの共通点もあまりよくわからなくて、普通に前作『Egypt Station』の延長線上にあるなあという気がしました。
コロナ禍で制作され、その不安感一杯の世界観を意識したのか、全体的に印象に残るのは、不穏な空気です。
暗いとまでは言いませんが、心が晴れない感じのアルバムでした。
ワクワクはしなかったです。
当時の状況を表していると言ったらそれまでですけど。
ポールのヴォーカルとしては、ファルセットが目立った感じですね。
多用していると言えるかどうかはわかりませんが、気付けば、これもファルセットだな、みたいな。
ただ、弾き語りのアコースティック・アルバムがあまり僕は好きではないので、そうなってたらイヤかなと思ってましたが、実際はアコースティック・アルバムという印象はなくて、バンド・サウンドと言ってもいいくらいの音の厚みのある作品でした。
そういうサウンドをポールほぼ一人で作れてしまうのだから、改めて凄いなとは思いました。
80歳近いお爺ちゃんが一人で作れるものじゃないよ。
このアルバムを世間はどう評価するのでしょう。
時代が産み落としたアルバムだというのは言えると思います。
(2024.12.31)
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