アンダーソン、ラビン&ウェイクマン Live@オーチャードホール 2017.4.18 感想

2017年4月18日(火) @オーチャードホール

本当のイエス?

2014年にイエスの来日公演を観に行ったのだが、ヴォーカルがジョン・アンダーソンではないのは、まるでコピー・バンドを観ているかのような感覚を受けてしまったのは結構ショックで、ああやっぱりヴォーカリストが違うってのは致命的だな、と思ったのだった。

で、イエスは昨年(16年)にも来日公演をしたのだけれど、メンバーの入れ替わりが激しいグループの中で、唯一居続けた、彼がいるからこそイエスと思われたクリス・スクワイアが亡くなってしまっているし、アラン・ホワイトも体調不良でフル・パフォーマンスが出来ないという現状では、これは果たしてイエスと言えるのか?という疑問の方が大きくて、僕はもうライヴを観る気はなくなっていた。

そしたら、そのイエスの来日公演のニュースと前後して伝わってきたのが、ジョン・アンダーソン、トレヴァー・ラビン、リック・ウェイクマンの3人が組んでツアーを回っているという事だった。
この3人が組んで演奏しているのは、当然イエスの曲であって、クリスがいなくなった今、イエスであると言えるのは、ジョン・アンダーソンがいるグループではないか?と思えるのだった。

そのARWが来日公演をするという事が決まったのは、皮肉にも、ちょうど、昨年イエスが来日公演をしていた頃ではなかったろうか。
そもそも僕は、最近のイエスにジョン・アンダーソンがいないのは、病気療養中だからだと思っていた。イエスに参加したくても出来ないものだと。
でも、たしかに、イエス脱退のきっかけは病気だったみたいだけれど、今はこうしてツアーをやっているのだと知って驚いた。なんだ、元気なんじゃん、と。

僕は、1992年のあの8人編成のイエスを武道館で観ていて、その頃はイエスにあまり詳しくなかったので(今もさほど詳しくないが)、どんな曲をやったりしたのか、詳しい事はよく憶えてないのだけれど、とにかく、予想以上に良くて、素晴らしいものを観たなあという良い思い出になっている。
それ以来、ジョン・アンダーソンを観ていないので、今回ARWとして来日すると聞いた時は、心が揺れた。こっちこそが、イエスじゃんか、観たいな、聴きたいな、と。

だけど、僕にとっての大きな欠点は、ギターがスティーヴ・ハウじゃない、って事だった。
誰がイエスかという議論になった時に僕が思うのは、1番がクリス・スクワイアで、2番がジョン・アンダーソン、3番がスティーヴ・ハウだという事。
今回のギターのトレヴァー・ラビンは、8人イエスの時にも観ているはずなのだけれど、そもそも彼が加入してイエスを大復活させたという『90125』時代を僕はほとんど知らない、という事。「ロンリー・ハート」くらいはなんとなく知ってる、って程度で、だから、思い入れがまったくないんだよね。
なので、ギターがスティーヴ・ハウじゃないってのは僕にとって大きな事で、チケット獲るのは躊躇した。スティーヴ・ハウだったら速攻でチケット獲ったのになあ、と。

行くか行かないか。チケット購入は4日前

それで、なんとなくズルズルと、どうしようか悩みつつ時は過ぎて行った。
運がいい事に、チケットは発売されるもなかなか売り切れにはなりそうもなかったので、僕も踏ん切りがつかないままだった。
焦らずともいいか、ギリギリまで考えよう、と。

もしも観に行くなら、仕事が休みの4月18日にしよう、とは決めていた。
だけど、長い事ズルズルしてたので、うっかり忘れてしまったんだよね。
4月25日に予定が入りそうになったんだけど、もしかしたら、ポール・マッカートニーの武道館に行く事になる可能性が無きにしも非ずだと思って、その予定を1週間早めて、18日に入れてしまったのだ。
で、入れてから気付いた。そう言えば、18日はARWに行くかどうか迷ってたんだっけ、と。
でも、予定を入れてしまった事で、ああ、これはもうARWには行けない、って事だな、と諦める事にしたのだった。

そう。1度はすっかり諦めてたんだ。予定が入ってしまったんだから、行けないじゃないか、仕方ないんだ、と。
でも、ライヴまであと数日、という所になって、ふと気付いた。よくよく考えてみたら、用事を済ませてから行くんでも間に合うんじゃね?と。
そう思ったら、よし、間に合うんだったら行こう!と、その気になってきて、速攻でチケットを求めてた。
普段は安い席でもいいと思ってる僕だけれど、1000円くらいの違いだったら、とS席の方を選ぶ。
後方席だけど、僕にとっては都合の良い通路側の席が確保できたので、これならばと購入に踏み切った。ライヴの4日前だった。

今回のツアーのセットリストは確認済みで、『The Yes Album』『Fragile』『90125』辺りが中心で、これならまあ、だいたい知ってる曲かな、と。
知らない曲が入ってるアルバムを丸ごと聴くまでの時間はないので、セットリスト通りのプレイリストを作って、iPodで聴いて予習をした。
急遽、気分をイエス・モードにしなければならないのは大変だったけれど。

ライヴ当日。会場へ

あっという間にライヴ当日。
用事も予想通りの時間に終わって、想定してた時間の電車に乗れて、無事に渋谷に着いた。
オーチャードホールも、昨年来たばかりなので、特に心配する事もなく会場入り。
開場時間を10分ほど過ぎてただろうか。
チケットは、ライヴ前日まで余ってる状態だったので、心配になって様子を観に行ってみると、やはり2階・3階席はガラガラの様だった。
今回、オーチャードホール3日間公演を組んでたけれど、正直、2日間で良かったんだと思う。
それに、やっぱり正式にイエスを名乗れない、ってのは大きいのかな。ARWと言っても、なんじゃそりゃ、って感じなのかもしれない。イエスって言われれば、「知ってるぞ」と興味を抱く人はもっといたんだろうに。

僕の席は1階37列8番。
最後から2列目だ。
僕の後ろの列、つまり最後方列はズラッと席が空いていた。もう少しの所で、1階席のチケットは売り切る事が出来なかったようだ。

ライヴのスタート

開演時間の19時を10分ほど過ぎ、始まった。

01. Cinema
02. Perpetual Change
03. Hold On
04. I’ve Seen All Good People
05. Lift Me Up
06. And You and I
07. Rhythm of Love
08. Heart of the Sunrise
09. Changes
10. The Meeting
11. Awaken
12. Owner of a Lonely Heart
(Encore)
13. Roundabout

まずはサポート・メンバーのドラマーとベーシストが登場。
続いてリック・ウェイクマン!
イメージそのままにというか、トレードマークなのだろう、マントを羽織っての姿に感動だ。
そしてトレヴァー・ラビンも登場。
彼の事はほとんど知らない分、楽しみでもあった。
リック・ウェイクマンとトレヴァー・ラビンがステージ上で抱き合った後、インストの「Cinema」だ。

そして、ようやくジョン・アンダーソンが登場しての「Perpetual Change」
歌い始めた瞬間、ああ、ジョン・アンダーソンの声だ、イエスの声だ、コピー・バンドじゃない!とホッと一安心できた。
ホント、ジョン・アンダーソンの声は衰えてなくて、期待してた通りのヴォーカルだった。やっぱりイエスはジョン・アンダーソンの声じゃないと!と確信した。

トレヴァー・ラビンの特徴みたいなものがなんとなくわかったのが「Hold On」
彼のギターは泣きの要素が入ってるね。スティーヴ・ハウの方は、スパニッシュ的なのが特徴で、もっと粒だっているんだけれど、トレヴァー・ラビンのギターには溶ける様な印象を抱いた。

ジョン・アンダーソンが日本語で「ウツクシイ、ウツクシイ」と連発して、その流れでの「I’ve Seen All Good People」
リズムよくノリが良いこの曲には、お客さんにも手拍子を求めるアクション。

8人編成時代のイエスからは「Lift Me Up」
8人というイメージからくるものなのか、より壮大さを感じてしまう曲だ。

しかし、この辺りから、恐れていた事態が。
今回もこうなりそうだなとは思っていたし、熱心な僕のブログの読者の方ならお察しがつく通り、またもや睡魔に襲われたのだ。
座って観るライヴでは、もはやお約束となりつつある事態だ。
座っていると、どうしても眠くなってしまう。
昨日も6時間は寝たのに。
だから座って観るライヴは嫌なんだよなあ。
まあ、立って観るライヴも疲れるんだけれど、眠くなるよりはずっといい。
今回は1階席だったから、なんとかみんなが立ってくれれば、僕も立って観れるかもと期待してたんだけど甘かった。
イエスのようなクラシック・ロックが好きなファンはほとんどが高齢。当然、座ったままでの鑑賞となったのだった。
だから、この辺りから、僕は睡魔との戦いに。記憶も途切れ途切れ。

大好きな『Close To The Edge』からは「And You and I」
でも正直言うと、全3曲の『Close To The Edge』の中では1番思い入れが少ないのがこの曲。
ほのぼのとしてて、あまり【危機感】を感じないんだよなあ。他の曲が良かった...。

力強い「Rhythm of Love」
僕がまだほとんど聴きこんでないトレヴァー・ラビン時代の曲だ。

中盤のハイライトだと期待してたのが「Heart of the Sunrise」
カッコよく痺れるこの曲で眠気も吹っ飛ぶか...と期待したんだけど、ダメだった。どうしても、スローでほんわかしちゃう部分があるからね。そこでうっとりしちゃってまた眠くなっちゃう。

トレヴァー・ラビンのさらなる魅力を観たのは「Changes」
ここでは前半リード・ヴォーカルをとっている。ジョン・アンダーソンに比べたら当然熱い声。へえ、こんな風に歌うのかあ、と思っていたら、終盤いつの間にかジョン・アンダーソンのヴォーカルに代わっているという。

このツアーで、日本に来る前までのセットリストでは、ここでは『Fragile』からの「Long Distance Runaround」「The Fish」が来ていたのだが、この日本公演からはABWH時代の「The Meeting」に変更。
唯一、聴いた事ない曲だった。
ABWH時代の曲だからなのか、トレヴァー・ラビンはお役御免で袖に引っ込んでしまい、というか、いつの間にかステージ上はジョン・アンダーソンとリック・ウェイクマンの2人だけで、リック・ウェイクマンのキーボード演奏だけでジョン・アンダーソンが歌う、という曲だった。
演奏形態上、シンプルではあったけれど、意外にいい雰囲気があって、なかなかいいなあと思って、少し眠気が醒めた。

よし、眠気がとれたぞと喜んだのも束の間、最大の難関の「Awaken」
僕にとっては馴染みのない曲の1つで、iPodで聴いて少し予習はしてたけれど、なかなか印象に残らない曲だな、と思っていた。なのに、15分くらいの大曲だったりするから難儀だ。
で、これがまた環境音楽の様な、よく言えば神秘的ではあるんだけれど、森の中でうたた寝するにはもってこいみたいな、ほんわかした曲なので、タイトルとは裏腹に、僕の意識はまったく覚醒する事なく、またもや睡魔との戦いとなってしまった。

聴き慣れない、泣きのギター・ソロを奏でた後、ジャージャジャッ、ジャジャッという有名なイントロに切り替わった「Owner of a Lonely Heart」
この、どことなく愁いを帯びた感じが、トレヴァー・ラビンのイエスでの功績なのかもしれないなとまた思った。
で、ふと気付くと、リック・ウェイクマンがいつの間にかショルダー・キーボードを弾いていて、間奏の途中で、客席に飛び降りた。
リック・ウェイクマンが客席中を練り歩くというのは、前日のライヴの模様をTwitterを通して知っていたので驚かなかったけれど、これでようやく1階席のお客さんが総立ちに。客席のリック・ウェイクマンを目で追っていた。
そしたら、いつの間にかトレヴァー・ラビンも客席に降りていたようで、僕は最後の方まで気付かなかった。
でも、ようやく客席が総立ちになり、ジョン・アンダーソンもギターをかき鳴らしながら飛び跳ねてるしで、演奏に熱が入ってるのがわかって、立つ事の出来た僕もやっと眠気から解放されて、ああ、1曲目からこういう状態だったらなあ、と。
これで本編が終了。
僕の隣の席の人は、ここで席を立って帰ってしまった。
え?最後に1番お楽しみの曲があるのに、どうして帰っちゃうんだろう...。

派手なコールはなかったけれど、自然に巻き起こる拍手に、ほどなくメンバーが再登場してアンコール。
もちろん、これをやらずには終われない「Roundabout」だ。
ここでも、イントロのギター・フレーズからして、トレヴァー・ラビンとスティーヴ・ハウの違いが鮮明だった。やや粘っこいトレヴァー・ラビンのギター。やっぱり僕はスティーヴ・ハウの方が好きなのかな。
繊細と言うより、パワフルさが目立った「Roundabout」だった。
なんにしても、僕が1番好きなイエスの曲で締めくくられたのは良い事だ。
21時10分。
2時間ジャストのライヴだった。

イエスを聴いた満足感

まず、良かったのは、元気なジョン・アンダーソンの姿が観れて、イエスの声が聴けた事。
それから、リック・ウェイクマンは、遠くからだったから、手元がよく見えなかったけど、手が激しく動いてるように見えないのに、多彩なフレーズが聴こえてきた事。リック・ウェイクマンのピロピロピロッとしたキーボード・プレイも、イエス・サウンドの要であると確信した。
トレヴァー・ラビンは、いろいろな発見があって、面白かった。好き嫌いは別にして、いろんな魅力があったのはわかった。これから、ちゃんとトレヴァー・ラビン在籍時のアルバムを聴こうと思う。

サポート・メンバーに関しては、ドラムは、とても迫力あって、いいリズムを刻んでたと思う。
高齢のバンドになると、若い頃より曲のリズムが遅くなって、ダルく聴こえてしまう場合もあるんだけれど、今回そんな事はなく、まずまずのスピード感があって良かったと思う。このドラマーは若いのかなあ?
ベースは...彼は悪くないんだけれど、やっぱり、クリス・スクワイアの事を思い出してしまうからね。クリス・スクワイアがリッケンバッカーのベースで、ゴリゴリとした音を出してる姿を思い出してしまうと、それとは違う音を聴いて、やはり寂しくなってしまった。

それから、不満ていう程でもないんだけれど、絶頂期のイエスの特徴でもあった、緊張感というのはなかった。
演奏のリズムやタイミングが寸分違わぬ、聴いてるこちらまでが真剣になって緊張してきてしまうような、スリルみたいなものは感じなかったな。
これはまあ、絶頂期の、若い頃とは違うし、そもそも正式なイエスではないし、仕方ない所なのかもしれないけど。

あとは、もうちょっと僕の大好きな曲をやってほしかったなあ、というのはある。
ちょっと思い入れの少ない曲だったり、どちらかと言えば平和的な曲が多いセットリストだったのでね。
半分眠ってたような奴が文句言える筋合いではないんだけどね。

でも、2014年のイエスを観た時よりも、満足感はある。
あの時は、メンバー的には「イエスを観た」って感じはしたけれど、今回はちゃんと「イエスを聴いた」って感じられたから。なにより、「本物感」は前回の比ではなかった。
やっぱり、今後は、なんとか和解するなり合体するなり権利問題をクリアするなりして、ジョン・アンダーソンがいるグループをイエスと名乗れるようにしてほしいなあ。

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