ポール・ウェラー『66』が目指すのは、穏やかな心の安寧! Newアルバム感想

ポール・ウェラーが、今年の来日公演での約束通り、NEWアルバムを届けてくれました。

タイトルも年齢に合わせ、誕生日の前日にリリースされた『66』。
アートワークは巨匠ピーター・ブレイク。
最初はシンプルすぎ!と思いましたが、見つめているとジワジワ来ます。
弟分のスティーヴ・クラドックがしっかりサポートしているのも嬉しいし、ポール・ウェラーが可能性を高く評価しながらも、惜しくも解散してしまったザ・ストライプスのジョシュ・マクローリーを起用しているのも頼もしい。
ストリングスでは近年のポール・ウェラーを支えているハンナ・ピールが担当していて、ポール・ウェラー・ファミリーのようなものも出来つつあります。
そんな仲間たちと共に、飽くなき創造力の探求のもと、作り上げたアルバムです。

サッと聴いてみた第一印象、核になりそうな曲もあったし、いい感じ。
全体像はちょっと掴みどころが難しい気もしたけど、スタカンの『Cafe Bleu』の様に、とっ散らかって感じるくらいが傑作になりうるかもと感じました。

そんな第一印象でしたが、聴いていくうちに、全体的には落ち着いた味わいに支配されているんだなと気付きました。
そんな中で特に浮き上がってきたのは「My Best Friend’s Coat」
メランコリックで切ないこの曲が僕の中では核になりそうだ、と。
そして毎日聴きこんでいくと、好きな曲が増えていきました。

冒頭の「Ship Of Fools」は、ザ・ラヴィン・スプーンフルのように、アコギをつま弾きながら、優しく穏やかに。
ポップな感触はありつつも、肩の力を抜いて、ゆっくり立ち上がるような幕開け。

「Flying Fish」は、ポール・ウェラーお気に入りのクラウト・ロック風のビートで、サビにかけて盛り上げるドラムが効果的。
クールでもありポップでもあり。このさじ加減が、今のポール・ウェラーの特徴です。

最近のポール・ウェラーは、一撃必殺のアッパー・チューンは少なくなってきてるけど、今回は「Jumble Queen」がそれに近いものがあるかな。
今年の来日公演で既に聴いていて、その時も好感触だったのですが、アルバムでちゃんと聴いて、やっぱりノリ良く燃える曲だなと。
ライヴで改めて聴いて、盛り上がりたい。
ノエル・ギャラガーが詞を書いてるけど、英語わからないんで、内容はどうでもいいや、カッコ良ければ(笑)。
ただ、ポール・ウェラーがノエルに詞を託した意味、ノエルがこめた意味など、深読みするのは面白いかもしれません。

「Nothing」は、都会の夜のイメージ。
ホーンが鳴り響き、ポール・ウェラーがムーディーに歌い上げると、間奏はモーグ・シンセがスペイシーで妖しい空間。

「My Best Friend’s Coat」は、メランコリックでやるせないメロディのワルツ。ジワジワとストリングスが心を締めあげます。これはお馴染みになったハンナ・ピールの良い仕事。
やっぱりこのアルバムで1番好きな曲。

「Rise Up Singing」は、ドリーミーで穏やかなサウンドのバラードで、ゆったりと朝日と共に希望の光が差し込んでくるかのよう。ソウルフルでソフトなR&B。
徐々にエンジンかけて。
今日もがんばろっかなと朝に聴くのにピッタリでは?

「I Woke Up」は、つま弾かれるアコギの響きから徐々に目覚めていく感じ。でも、また二度寝したい心地良さです。

「A Glimpse Of You」は、ゆったりとスウィングし、ピアノとストリングスで夢心地。

この辺り、地味目に捉えられそうな流れではあるけれど、この辺がポール・ウェラーの余裕です。

「Sleepy Hollow」も、アコースティックな肌触りが心地良い。フルートとサックスの音色が効果的に使われ、穏やかな心の安寧に繋がっていきます。

「In Full Flight」は、深海なのか宇宙なのか、ゆっくりと漂い泳ぐような感覚。ソウルフルなコーラスが空間に厚みを感じさせます。

「Soul Wandering」は、オーシャン・カラー・シーンの名曲のような轟音のイントロのギター・リフが突き刺さります。弾いてるのはスティーヴ・クラドックですからね。
ソロ初期に見られた骨太のソウル・ロックの再来で唸りまくりです。

「Burn Out」の浮遊感も際立っています。サックスが豊かなソロを吹き、クール・ダウンし、夢の続きを見るようです。

そして日本盤CDボーナス・トラックが「That’s What She Said」がいい感じなんです。
スタカンみたいなお洒落なフレンチ・ポップス風とでもいいましょうか。とはいえソロでも、こんな感じのサウンドありましたけど。ようするに安定感。
サブスクでは聴けない、こんな良い曲が入ってるとあって、ちゃんとCD買って良かったと実感しました。
というわけで、日本盤CDおススメですよ!

まとめますと、今回のアルバムは、期待に応える素晴らしさでした。
たしかに、以前のように一聴してガツーンとやられる曲は少ないかもしれません。
インパクトよりも、さりげなく心の中に侵入してきて、ジワジワと沁み入るタイプです。
落ち着いた味わいは、枯れた、というのとも違う気がしますね。
積み重ねてきた音楽人生、これっぽっちも後悔してないポール・ウェラーの余裕、懐の大きさを感じます。
なんだか良い時間を過ごせたな、もう一回聴いてみようか、そんな感じで繰り返し聴いてしまうのです。
この殺伐とした世の中、いろいろなことがあるけれど、諦めず、心の安寧に向かって生き抜こうじゃないかと言っているかのようです。
そのために、ポール・ウェラーは変わり続けていくんだという信念はブレてなくて、またもや嬉しくなるし、勇気ももらいました。
その先にはきっと希望があると思えるアルバムでした。

そして、このアルバム。
オリコン週間ランキング初週30位。売り上げ1583枚でした。
まあ、これは健闘したかなと思えますね。
CDの売れない時代にこれだけ売れたんだから。アナログの分も入ってるのかな。
でも、NEWアルバムを待ってましたとばかりに買ったのは1500人かと思うと、やっぱり少ないよなあとしみじみ。

できればCD買ってほしいなとは思いつつも、もちろんサブスクでもいいので、ぜひ聴いていただいて、今のポール・ウェラーの絶好調ぶりを体感してほしいですね。

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