
10年振りの贈り物
タイトルが『THANK YOU SO MUCH』て。
今までの総括的で、これが最後のアルバムになると示唆するかのような、感謝と別れの言葉に感じられて、なんだか複雑。
タイトルを知らされた時は素直に喜べなかったりした。
アルバム収録曲のすべてを、リリース前にラジオの『桑田佳祐のやさしい夜遊び』で聴いて。
断片的ではあったけれど、だんだんと、アルバムの雰囲気が見えてきた。
基本的にはポップ。
そして、平和なムードも感じたのだけど、曲によっては密度が濃厚なものもあったので、掴みどころがない感じもした。
今まで聴いたことのないサザンのアルバムになるような気がしてきた。
でも正直、今回のアルバムは、強力に惹かれる僕好みの曲は少ないかなあ、あんまり期待は出来ないかなあ、とも思っていた。
だけど、毎週オンエアされる新曲を目当てに、以前はたまにしか聴かなかった『夜遊び』を聴くのが楽しみになって、毎週聴くようになったんだよね。
それほど僕好みではないと思いながらも、今日はどの曲がオンエアされるかなと楽しみにしている自分がいる。
そのようにラジオでポツリポツリと聴いてきた曲たちを、アルバムとしてまとめて聴いたら、どんな感触になるんだろうと、アルバムのリリースがどんどん楽しみになっていった。
そうして、ようやくリリースされたNEWアルバム。
サザンとしては10年振りになるというのだから、感慨深い。
早速通して聴いてみると、これは思ってた以上にテンションが上がった。
1曲1曲を見ると、やはり思い入れの強い80年代までの曲には遠く及ばない感じだし、僕の好みという点からすると、いまいち物足りない感はある。
だけど、アルバムとして聴いていると、どんどんテンションが上がってきて、それぞれの曲の良さが聴くたびに伝わってくるというか、何度も何度も聴きたい衝動に駆られて仕方なかった。
『THANK YOU SO MUCH』全曲解説
「恋のブギウギナイト」。
このめくるめく淫靡な世界。いきなりサザン得意の分野だ。
「愛と欲望の日々」辺りを彷彿とさせるが、あれよりも幾分クールな肌触り。
エレクトロなディスコ・ソングで、ミラーボールがぐるぐる回ってるのが目に浮かぶ。
オクターブ低い声で歌い始めてからの、「♪ もうウキウキ」の開放感。
サビで弾けて、「♪ Woo woo」の天にも昇る感じがエグい。
サザンはいつまでもエロいなあ、と。
でも、エロいこと考えてるけど、もうそれは叶わぬ夢という切なさが滲むのが涙。
「ジャンヌ・ダルクによろしく」。
イントロのリフから勝負するような、気合いの入るハード・ロック。
ローリング・ストーンズが現役バリバリで傑作『Hackney Diamonds』を出して、それに負けじと触発された感。
桑田さんの声を潰した歌い方からのシャウト。
なによりスライド・ギターがカッコいい。
ベテランのロック・バンドがこれだけ現役感たっぷりに頑張ってんだから、みんなも頑張れよと言ってるようで、熱くノリながらも、身が引き締まる思い。
「桜、ひらり」。
春に心が軽くなる時のようなサウンド。
新しい生活に希望を抱く、みたいな。
ただ、その根拠になっているのは、辛い毎日を生きている人に寄り添うということ。
大好きな人たちもいなくなって、生まれた場所が嫌いになるって辛いことだと思う。
それでも、未来へ目を向けてほしいというメッセージ。
重たい説教臭くならないように、軽やかな音色と歌い方に工夫の跡が見える。
締めくくりは、「You are comin’」みたいな英語なのかと思ったら、「♪ 柳暗花明」。
しかも桑田さんの造語かと思ったら、古くからある四字熟語。
これが曲のテーマに沿った言葉の結びになっているのが見事。
春にひらひら桜が舞う。
鳥たちが飛び、鳴く。
春はもうすぐだ、と思いたい。
「暮れゆく街のふたり」。
どこかドロドロとして情念たっぷりの昭和歌謡。
フォーク・ソングと言う人もいるかもしれないけど、これは演歌に近いかも。
こういう世界も桑田さん好きだよね。
桑田ソロ『がらくた』収録の「簪/かんざし」とか。
かたや、遊び相手という認識。
こなた、心から愛した人という認識。
二人の関係の行く末はどうなるのか。
ずっと女性の目線で歌われていくけれど、最終ラインで男目線になると思われ、想像がさらに膨らむ。
「盆ギリ恋歌」。
いかがわしく燃えたぎる夏のダンス・ミュージック。
「シュラバ★ラ★バンバ」とか「エロティカ・セブン」とか、90年代のサザンによく見られた音像だ。
江戸の昔と90年代と令和の夏がミックスされた。
夏祭りとは、盆踊りとは、何が目的で始まったのか。
先祖に思いを馳せつつも、大いなる下心があるハレの日だ。
脇目も振らずに踊り狂いたいが、女性が近くにいれば、なんとかならんもんかと気になって仕方ないといったところだ。
「ごめんね母さん」。
ポツポツと冷たい雨が滴るようなビート。
とことんダウナーなサウンドは、ビリー・アイリッシュのようで、サザンとしては新境地。
闇バイト、裏社会に足を踏み入れた若者の問題を取り扱っているようでも、桑田さんはそこまで想定してなかったらしい。
無意識のうちに歌詞が社会問題とリンクした好例だ。
お母さんごめん、もうしないよと言いながらも、泥沼から抜け出せない苦痛が生々しく伝わってくる。
ただ、とことん暗くなるばかりではなくて、何故か体がウズウズ、踊りたくなってくる曲でもある。
「風のタイムマシンにのって」。
これはもう、一気に爽やか。
タイムマシンじゃなくても、車でも自転車でもなんでもいいから、外へ出かけたくなる。
ピアノを中心とした力強いリズムに軽やかな口笛。
原坊の声が風に舞っていく。
「史上最恐のモンスター」。
曲名を見た時は、「マチルダBABY」とか「怪物君の空」みたいなハード・ロックなのかと想像したけれど、全然違った。
一聴すると、ほのぼのとしたメロディとサウンド。
だけどよく聴いていくと、そこに込められた不穏なワードの連続にゾッとさせられる。
桑田さんのことだし、「雷神さん」は「Rising Sun」からの発展なのではないかな。
竜神、雷神、大黒、弁天など神々が登場。
地球を大切にしない人間たちが、自然の驚異にしっぺ返し食らうような警句を含む。
淡々と歌う桑田さんが不気味。
間奏で、突如フュージョンみたいになるのも印象的。
「夢の宇宙旅行」。
とにかくポップなビートに心がワクワクする。
「ピースとハイライト」的なサザン得意のサウンド・メイクだ。
桑田さんがメンバーに聴かせた時、エルトン・ジョンとかデヴィッド・ボウイの感じだねと言われたそうだけど。
たしかに、軽快なピアノと流麗なストリングスはエルトン・ジョンのサウンドだとすぐに思えたけど、ボウイの影響ってあるのかな?と最初は思った。
でも、何度も聴いてるうちに、サビの「♪ Looking for 火星眺めて」のメロディが、ボウイの「Space Oddity」のサビ「♪ This is Ground Control to Major Tom」と同じ動きをしていることに気付いた。
だから親近感があったのかな、とにかく、このサビが最高なんだ。
気分良く宇宙を旅してたと思ったら、テンポがスローになって、居眠りから冷めたら自分の部屋だったという夢オチが明かされるところがたまらなく切ない。
サザン全曲の中でもベストテンに入る、屈指の名曲。
アルバムのリード曲としてプロモーションされてたけど、これは正式にシングルで出すべきだったな。
「歌えニッポンの空」。
ハワイアンなのか、南国ムード全開ながらも、でも日本を歌ってるという。
ほのぼのとしていて、平和な感じ。
底抜けに明るい感じも伝わってきて安心感に包まれる。
世界中どこまでも、そして誰とでも繋がってる空。
壮大な世界観を持ちながらも、コアな部分は誰にでもある故郷がテーマになっていて、実はミニマルな曲でもある。
「悲しみはブギの彼方に」。
サザンのファンになってすぐ、デビュー前のレパートリーにこういうタイトルの曲があると知った時、なんて素敵な曲名なんだ、と思った。
ぜひ聴いてみたいものだと思ってから40年。
実際に聴いてみたら、イメージしてたものと違ったけど、曲調が激しく変わって展開するし、これはこれで好き。
悲しみは...と言いつつも、カラッとしてて、悲しみを感じない曲調。
スライド・ギター効かせまくりだし、「♪ リンスにシャンプー」の原坊のハモりなど、いかにも初期サザンのサウンド。
デビュー前からあったこの曲を何故1stに入れなかったのかといえば、同じようにリトル・フィートに影響された「いとしのフィート」があったから、リトル・フィートばっかりじゃん!と批判されるのを避けるため。
そして、「女呼んでブギ」があったから、ブギばっかりじゃん!と批判されるのを避けるため。
そんなところだろう。
「いとしのフィート」では「♪ ラーメン食えない」と歌ってたのに対し、こちらは「♪ 米食えない」と歌ってるのも面白い。
『熱い胸さわぎ』に入ってても良さそうな雰囲気がありながらも、サウンド的にはやはり現代の感覚。
こういう風に、昔作った曲を引っ張り出してくるのって、桑田さんにしては珍しいことなのでは?
サザンの歴史を感じさせる、こんな粋なことするのも、ファンへの感謝の気持ちがこもったプレゼントみたいだ。
「ミツコとカンジ」。
前曲が終わると、キーボードのグワングワンという効果音が聴こえてきて、まるで78年から現代へタイムスリップしたかのようにも感じるメドレー形式。
デビュー前の曲を持ってきただけでは芸がないとばかりに、成熟した今のサザンが生み出すブギ。
曲の主人公の女性の名前が、ミツコというのにピンと来たそう。
そこから、ミツコといえば倍賞美津子を連想し、ならば相手の男性はアントニオ猪木、本名カンジと連想していったという。
物語の内容はフィクションだけれど、「カラダの傷」「魂のゴング」「チョップ」「チャンピオン・ベルト」などのワードが出てきて、もう猪木にしか思えない。
昭和の、大らかな時代の男女の話に心が和む。
でも、サビの「♪ 何を求めて」のコード進行&メロディが切ないんだな。
締めの「♪ go back home」のコーラスは、もちろんザ・バンド「The Weight」から拝借。
前曲と併せて、新旧のブギが痛快な流れだ。
「神様からの贈り物」。
大衆芸能、特に戦後から阿久悠、筒美京平あたりが隆盛を誇るまでの、煌びやかな昭和の歌謡曲への思慕が込められている。
NHKからの要望があったにせよ、「また逢う日まで」に触発された桑田ソロの「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」の発展形とも言えるね。
テーマは日本歌謡界でありながらも、サウンドはジャクソン5的なモータウン、フィリー・ソウルを彷彿とさせるのが面白い。
Aメロの軽やかな歌い方、つい一緒に口ずさみたくなる。
「ポップ・ミュージック」「極上のメロディ・ライン」といったワードが登場し、素晴らしい歌と出会えた幸せ、音楽と共に生きる喜びに感謝する。
そして、その思いは、歌手だけに限らず、スポーツ選手、文化人など、多くのスーパースターに思いを馳せることになり、日本の経済成長、文化の発展を実感することとなる。
聴いてるこちらからすれば、その偉大なる歴史に、サザンも大いに貢献してますよと言いたいところだ。
間奏前に桑田さんが「ギター!」と呟くんだけど、聴こえてくるのは何故かピアノ・ソロ(笑)。
その後に、ちゃんとギター・ソロがあるけどね。
あの呟きはなんなんだ、という感じで。
「Relay~杜の詩」。
このアルバムはバラードが少ない。
ゴスペル的展開を見せるこの曲だって王道バラードとは言えないかもしれない。
憂いを含ませて、消え入りそうなギリギリの歌い方が刺さる。
杜が、自然が、理由も知らされず、いつのまにか消されてく世界。
そんな世の中で、次の世代の子供たちに明るい未来を繋げられるのかという疑問。
そんな問題提議を、押しつけがましくなく、「♪ 馬鹿でごめんよ」と、馬鹿と卑下しつつの、馬鹿なりの提言としてまとめ上げる。
ポップ・ミュージックには、こんなことも出来るんだよということを教えてくれる。
全体的には、楽しいアルバムだ。
もちろん、暗く重たいテーマの曲も多いし、明るいだけではないのだけど、全体を通しての印象となると、楽しいなあ、というイメージが強く残る。
古希を迎えようとしてるけど、まだまだパワー旺盛だし、相変わらずエロだし。
でも、若い頃と違って、かなり思慮深くなっていて、惚れた腫れたエロだスケベだ、だけではない、社会全体を俯瞰的に見る懐の深さでもって、音楽を楽しいと感じさせる。
こういう感触のサザンのアルバムは聴いたことない。
ベテランの余裕を携えながらも、また新たな扉を開けたような新感覚のサザンだ。
1曲1曲が凄いと言うよりも、アルバムを通して聴いてこそ押し寄せてくる感動や興奮の大きさという意味では、ビートルズの『Sgt.Pepper’s』に通じるものがあるかもしれない。
これは聴きこまずにはいられない。
タイトルの『THANK YOU SO MUCH』も、アルバムの素晴らしさを実感した今となっては、サザンからの感謝の言葉を素直に受け取れるし、同じ言葉をそっくりそのままサザンに返したい気分だ。
結果的に、良いアルバム・タイトルだったと思う。
購入するなら初回限定盤!
サブスクでも聴けるけれど、サザンはレコードやCDを通して大きな存在になっていたバンド。
やはり、フィジカル・パッケージを通して楽しみたい。
とはいえ。
通常盤CDのみを買った人がいるとするならば、大きな選択ミスをしている。
初回限定盤に付属の、ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024のライヴ映像が素晴らしすぎるからだ。
当日、僕はライヴ・ビューイングで観たけれど、今回Blu-rayで観直してみて、こんなに素晴らしいライヴだったのかと驚いた。
冒頭「女呼んでブギ」で、ライヴの期待値を苦笑いに変えるセンス。
「ジャンヌ・ダルクによろしく」「My Foreplay Music」と、新旧のイケイケ・ロック・ナンバーで煽る序盤。
「海」でしっとり聴かせる様は、やはりシングル候補になった名曲だなと痛感させられる。
「愛の言霊」は、入念なリハーサルを繰り返し、実はこのライヴで重要な勝負曲であったことが明かされた後に聴くと、その意味の重たさを実感。
「いとしのエリー」や「真夏の果実」といったサザンの代表的バラードが配置されて、フェスに来たファン以外への観客への配慮を感じる。
衝動と切なさをポップに料理した「思い過ごしも恋のうち」を採り上げてくれたことには感謝する。
「東京VICTORY」での、観客とのコール&レスポンスで一体感。
「恋のブギウギナイト」は、ノリの良いディスコ・ソングなのはわかっていたけれど、ライヴで生演奏すると、こんなグルーヴになるのか、想像以上に盛り上がるんだなあと興奮した。
不倫に手厳しい世の中になった昨今、爽やかな「LOVE AFFAIR~秘密のデート」を聴いて、何事にももう少し寛容の心を持った方が、もっと生きやすい世の中になるのではと思いを馳せる。
ライヴ終盤の「マチルダBABY」「ミス・ブランニュー・デイ」「みんなのうた」「マンピーのG★SPOT」の怒涛の畳み掛けはやはり圧巻。
その場にいられなかった悔しさも増す。
アンコールの「希望の轍」「勝手にシンドバッド」の流れは、あの平成最後の紅白の大成功で、これぞサザン!と定番化した流れでもある。
最後には、このフェスに出演したアーティストたちがステージに集結するので、権利の関係で商品化は難しいかもと思ってた。
しかし、それを難なくクリア、完全な形でディスクに落としこんでくれたのは感謝しかない。
あの日のライヴは、こんなに素晴らしいものだったのか。
ライヴ前後のドキュメンタリー部分も含めての2時間5分というのも、集中して観るのにはちょうどいいボリュームだ。
これを自宅で何度も味わえるのだから、本当にありがたい。
今やっているツアーのセットリストにも重なる部分も多々ある。
ということでつまり、このライヴは必見中の必見で、初回盤を購入することが正解だ。
音源だけならサブスクでも聴ける今、通常盤CDだけを買うのは何故?と問いたい。
予算の関係で、そこまで出せなかったと言われたら、そこは同情する。
懐事情があったのはわかる。
でも、それなら、いつか中古でもいいから、お金に余裕が出来た時に、初回盤を買い直してほしいと強く思う。
ライヴ映像に興味がない?
そういう人もいるのかもしれないが、僕には理解不能だ。
ファンなら是非観てほしいし、ファンでなくとも絶対に観て損はない映像だ。
老若男女、コア・ファンから初心者まで、すべての人の心を打つこと必至だ。
サザンのライヴの素晴らしさを、一人でも多くの人に知ってもらいたい。
そういう訳で、購入するなら初回限定盤一択でお願いしたい。
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