エルヴィス・コステロ Live@東京芸術劇場 2003.10.1 感想

2003年10月1日@東京芸術劇場

2年連続のコステロ。今回はしっとりムード?

コステロ・ライヴ。東京芸術劇場。

9月中はずっと体調が悪く、ライヴに行けなかったらどうしようと思っていたのだが、2日前の夜からやっと回復傾向。滑り込みセーフで無事出動できた。

今回のライヴは、バンド編成ではなく、スティーヴ・ナイーヴと2人でのステージ。
新作『ノース』が、しっとりジャジーなアルバム。この雰囲気なら、2人での演奏でも充分。
この新作からの曲に加え、同じような世界観を持つ曲を中心に選曲されているライヴになる、との事だった。
僕は事前にセット・リストを知りたい派なので、サイトでチェック。
数日前に2日間ニューヨークで行われたセット・リストを見ると、2日とも微妙に違う。
コステロのライヴは、毎日違ったリストになるのが当たり前。
おそらく日本でのライヴも、このニューヨークのものとは異なるのだろうが、ある程度の方向性(必ず演る曲)は決まっているようだ。
『ノース』収録曲以外で演りそうな曲をMDに録音して予習もOK。

ライヴ当日。会場へ

池袋にある東京芸術劇場。
僕は今回初めてなんだけれど...なかなか渋い場所だよね。
通常はクラシックやオペラ中心に使われてるのかな、ロックのライヴにしか行った事のない僕にとっては、客席の作りもちょっと変わったものに思えた。
こういう場所が選ばれたのも、今回のライヴがロック志向ではない、という事を表してるのかもしれないね。

僕の席は3階D列19番。相変わらずイープラスで取った席はひどい。
まあ、アーティストに近いかどうかはこだわらない、どっちかと言うと後ろの方でのんびり観る方が好きな僕にとっては、それなりに好都合なんだけど。
1~2階席はほぼ埋まってたようだけど、3階席の後ろの方は、ごそっと何列か空席だったなあ。
コステロでもこのクラスのホールが埋まらないなんて。
受付では明日のチケットも売ってたし。
焦ってチケット取った身としては、なんとなく寂しいね。

ライヴのスタート

7時開演との事だが、約5分遅れてのスタート。
コステロは、黒のスーツで登場。
1年前に観たばかりだから、外見はほとんど変わってないようだったけど(もしかしたら、若干痩せたかも?)。

01. Accidents Will Happen
02. Brilliant Mistake
03. Little Triggers
04. 45
05. Shot With His Own Gun
06. You Left Me In The Dark
07. Someone Took The Words Away
08. When Did I Stop Dreaming?
09. You Turned To Me
10. Fallen
11. God’s Comic
12. Indoor Fireworks
13. Either Side Of The Same Town
14. Man Out Of Time
15. In The Darkest Place
(Encore 1)
16. (What’s So Funny ‘Bout) Peace, Love And Understanding?
17. Shipbuilding
18. Radio Silence
(Encore 2)
19. When It Sings
20. Still
21. Can You Be True?
22. North
23. Deep Dark Truthful Mirror
24. Almost Blue
25. Let Me Tell You About Her
26. I’m In The Mood Again
27. Couldn’t Call It Unexpected #4

スティーヴがピアノでイントロを奏で、予定通り「アクシデンツ・ウィル・ハプン」でスタート。
『アームド・フォーシズ』のボーナス・トラックに収められてたものと同じようなアレンジだったが、コステロがアコギを鳴らしてる分、よりリズミカル。
『ノース』ツアーらしく、静かな幕開けになると予想してたので、これは意外な雰囲気。いつものライヴとあまり変わらない感じ。

続いて「ブリリアント・ミステイク」
『キング・オブ・アメリカ』からの選曲で、早くもお客さんの大拍手。

今夜披露された曲の中では最古のものとなる「リトル・トリッガーズ」

昨年リリースされたアルバム、そしてライヴでも冒頭を飾っていた「45」
お客さんのリアクションをみると、やはり人気の高い曲だという事がわかる。

ここまでは、割とゆったりした感じの曲を、リラックスした雰囲気で歌ったコステロ。
ここでギターを置いて、伴奏をスティーヴのピアノだけに任せて「ショット・ウィズ・ヒズ・オウン・ガン」
この曲はやはりスティーヴのピアノが聴き所。グサグサと刺さる感じだ。ソロ・パートのフレーズがCDと違っていて、つい引き込まれる。スティーヴにスポットが当たる場面になると、自分はステージ奥の、ライトの当たらない場所へと引っ込むコステロ。憎い。

ここからは『ノース』コーナー。
「新しいアルバム、『ノース』で...」と説明するコステロだったが、段々と声が小さくなる。ボソボソボソボソ。これはギャグなのか??小さい声で話されると、3階席ではほとんど聞き取れないのだよ。
『ノース』の1曲目から5曲目まで、アルバム収録順に歌われた。
ここでのコステロは、ギターを弾かず、マイク・スタンドに手をかけ、曲によってはスタンドを傾けて歌ってみたり、マイクに近寄ったり離れたり、腕を組んだまま歌ったり、と、パフォーマンスが面白かった。
ただ、今日のコステロのヴォーカルは、前半は調子が悪かったように思う。
オープニングから何曲か、若干声がかすれ気味になったり、聴き取りにくいなと思っていたのだけれど、この『ノース』コーナーでは、ついに声がひっくり返る場面も。
はっきりと「あれれ?」と思う失敗が2ヵ所も。来日したばかりの公演初日となるので、仕方ない所か。
コステロもやはり人間なんだな、と。
しかし、そんな失敗は問題ではなく。
この『ノース』コーナーは非常に心地良かった。
もっとも、僕がアルバム『ノース』を気に入ってるからではあるんだろうけど、このゆったりとした流れ・雰囲気は最高。
スティーヴの優しいピアノ、コステロのヴォーカル。
気になってた体調の不安も薄れ、どんどん気分がよくなっていくのがわかった。

再びギターを抱えて「ゴッズ・コミック」
今日のハイライトのひとつと言っていいだろう。
スティーヴのピアノが印象的。CDとはまったく違った雰囲気にアレンジされていて、コステロのギターとの絡みが、非常にスリリングに聴こえるのだ。
会場は相変わらず静かな雰囲気に包まれていたが、気分が良くなった僕は、思わず手や足でリズムを取ってしまっていた。
すると、クライマックスで突然演奏を止めるコステロ。
そして何やら話し始める。
何故演奏を止めたのか。
アクシデントか?
演出か?
客に対して指示を出したように思えたが、言い訳をしてるようにも思えた。
声が小さくてよく聞き取れなかったのと、英語がわからなかったのとで、結局何を言ってるのか全然わからなかった僕。
再び歌い始めたコステロだったが、歌いながら噴き出してる(笑っている)し。
一体、さっきはなんて言ってたのだろう??
そんな事を考えてたら、観客がコーラスの掛け合いを始めた。
お。やっぱり指示が出てたのか。
「♪ Now I’m dead.....Are you scared?.....」。

「室内花火」、セルフ・カヴァーの「イーザー・サイド・オブ・ザ・セイム・タウン」。そして「マン・アウト・オブ・タイム」
このあたりになると、コステロのノドも本来の調子をとり戻す。

そして、「イン・ザ・ダーケスト・プレイス」
本日のベスト・パフォーマンスはコレ。
バート・バカラックとの共作アルバム『ペインテッド・フロム・メモリー』のオープニングを飾る曲なんだけれども、いやあ、とにかく凄かった。
スティーヴのピアノは、時に穏やかに、時に狂おしい程に、めまぐるしく表情を変える。そしてコステロのヴォーカル。この曲って、こんなに激しかったっけ?と思わせるほど。CDのヴァージョンとはまるで迫力が違う。
CDでは、女性ヴォーカルのパートがあるんだけれど、ここではそのパートを、そのまんまコステロが歌い上げた。完璧なヴォーカル。これには背筋ゾクゾク。
これだよなあ、生の迫力って。
この曲が本編最後になっているのも納得。

本編終了後、一度引っ込んだものの、あまり間を置かずに再登場。
アンコールその1は、また『ノース』の続きのはずだよな...と思っていたら、ギターを抱えるコステロ。
あれ?『ノース』の雰囲気と違う...と思ったら。
ギターをかき鳴らしてはじまったのは「ピース・ラヴ・アンド・アンダースタンディング」だった。
「あれれ?もうこの曲??この曲の前に5~6曲やるはずじゃなかったの?すべてカット??」ちょっと焦る僕。
ニューヨークでのセット・リストを頭に入れてあったため、それとの大きな違いに戸惑い、もしかしてかなりの曲がカットされたのかも、と不安になる。
せっかく大好きな「ピース・ラヴ・アンド・アンダースタンディング」をやってる最中だというのに、あまり曲に集中できず(ただ、バンド編成で演奏してこそ盛り上がると思ってたこの曲、ピアノとアコギだけても充分盛り上がれるんだね。それはよくわかった)。

次も大好きな「シップビルディング」
今日はこの曲を聴きに来た、と言っても過言ではなかったんだ、他の曲の事は忘れて、とにかくこれを楽しもう、と。
この曲は、CDでは後半チェット・ベイカーのトランペット・ソロが聴き所になっているのだけれど、今日の編成ではムリなので、まるまるカット、あっという間にエンディングになってしまった。早い。
しかし、「♪ diving for pearls」のフレーズに合わせ、コステロがギターで海底の雰囲気を出しているように思えた。

そして「レディオ・サイレンス」で、アンコール終了。

アンコールその2。
ここで出てきたのが「ホエン・イット・シングス」「スティル」等の、『ノース』楽曲。
ああ、ここに持ってきたのか。良かった、ごっそりカットじゃなくて。
『ノース』の曲はやはり落ち着く。どの曲も激しい起伏はないのだが、優しく心に馴染むメロディ。
やっぱり僕は『ノース』が好きだ。家に帰ったら、また『ノース』を聴こう、そんな気にさせられた。
『ノース』の4曲を歌い終わると、ステージ前方に出てきて深々とお辞儀、拍手を浴びるコステロ&ナイーヴ。
いや、むしろ拍手を要求してるようなポーズだ。
それに快く応えるかのように大きくなる拍手。
それで納得したのかコステロ、大きく頷いて「もう少しやろう」と。

『スパイク』からの「ディープ・ダーク・トゥルースフル・ミラー」
ギターのストロークが心地良い。

そして「オールモスト・ブルー」
この曲も僕が心待ちにしていたものだ。コステロが歌いだすと同時に、コステロの肩辺りで「ブチッ」と音がした。ストラップが外れたのかと思ったが、何事もないようにギターを爪弾くコステロ。
気のせいか...と思ってると、2コーラス目あたりで、ストラップがボトッと床に落ちた。やっぱり外れてたんじゃん!
そこでギターを弾くのを止め、歌に専念するコステロ。スタッフがすぐにギターを回収しに来る。
ストラップをかけ直し、またコステロに渡すのかと思いきや、ギター・スタンドに立てかけて帰ってしまうスタッフ。あれれ?
すると、歌い終わったコステロは、演奏を続けるスティーヴの元へ歩み寄る。
そして、ここでピアノ演奏がスティーヴからコステロにチェンジ。なんと素早い事。演奏は途切れず、まったく自然。
そして、スティーヴは、メロディカで、哀愁溢れるフレーズを紡ぎだす。
このアレンジ、『クルーエル・スマイル』に収録されてたものとほぼ同じものなんだけど、なるほど、そういう事か。
て事は、ストラップはわざと外した演出、って事だったんだろう。
この曲も、ハイライトのひとつだったね。

この後は、さらに『ノース』からの2曲。
ここでは、スティーヴが袖に引っ込んで、コステロがそのままピアノで弾き語り。まさしくシンプルな構成ながらも、うっとりするひと時。

ふたたびスティーヴが戻ってきてピアノ。
ラストとなるのは「クドゥント・コール・イット・アンエクスペクティッド・NO.4」
コステロはマイクを使わず、生声を会場中に響かせるという名演だ。
ステージ前方で、左右歩き回りながら歌い上げる姿は、本当にエンターテイナーだなと実感する。
ラストは、観客にハミングを催促。でもなかなかはっきり歌わないのが日本人(もちろん僕もそんな一人)。「もっと!」「女性だけ!」「みんなで!」でエンディング。
すべての演奏を終えたコステロ&ナイーヴ、2人が姿を消しても、数分間拍手は鳴り止まなかった。

繊細なピアノとコステロの圧倒的なヴォーカルを堪能

今回は、このようなシンプルな編成でのライヴという事もあって、いつもにも増して、ヴォーカリストとしてのコステロが堪能できたように思う。
そして、ピアニストとしてのスティーヴ。
バンド編成での演奏では目立ちにくい、あるいは見落としてしまいがちなスティーヴの繊細なピアノが充分楽しめて良かった。

終了したのは9時ちょっと過ぎ。ほぼ2時間ジャストのライヴだった。
アンコールを含めて全27曲。
これはもしかしたら短い方かもしれない。
初日だから控え目にやったのか?
明日またここで行われるライヴ、そして大阪公演では数曲追加されそうだなあ。
でもまあ、聴きたかった曲はちゃんとやってくれたし、不満はないね。
コステロは昨年観たばかりだったけど、今回はまた、まったく違った満足感を与えてくれた。
その点も含め、さすがコステロ、だった。

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