これは、もしかしたらまりやさんの最高傑作かもしれない。
いや、『VARIETY』や『REQUEST』『Quiet Life』を凌ぐほどのものなのかと言われれば、結論はもう少し時を経なければなりませんが、それらに匹敵するほどの完成度を持ち合わせているのは確かです。
リリースと同時に、こんなに聴きこんでるまりやさんのアルバムは僕としては初めてです。
多くの曲にタイアップが付いていますが、僕的にはほとんどの曲が初聴き。
まさしく新曲だらけのNEWアルバムという感じで聴きました。
でも、最初は、そんなに大きな期待を持っていたわけではなかったのですよ。
タイアップになってた既発曲が大ヒットしたとか、大きな話題になってたとかいうのだったら、期待もしたのでしょうけど、あまりそんな話は聞かなかったからですね。
そこそこ良い曲がいくつかあればいいかな、くらいの気持ちでした。
でも、実際に聴いてみたら、これがマジとんでもなくて。
いつものように山下達郎のプロデュースではあるけれど、全曲サウンド作りに絡んでいるわけではなくて、外部に頼ったりしている曲がいくつかあるのも、今までと違った大きな特徴です。
「Brighten up your day!」。
ラジオ番組がスタートしたかのようなジングル的要素を持つ幕開けで。
カーペンターズを思い起こさせる、洋楽的な感も受けましたね。
達郎さんのギターのカッティングが跳ねていて、心地良いリズム。
何気ない日常、変わり映えのしない生活を、まりやさんが良いものに変えてくれるような、魔法がかかった曲。
実際はラジオ番組ではなくて、テレビ朝日の情報番組のテーマソングでした。
「小さな願い」。
まりやさんの好きなマージー・ビート・サウンド。
甘酸っぱいコーラスのサビなど、胸キュン要素にまりやさんの願いがこめられています。
「ベイビー・マイン」。
ディズニー映画『ダンボ』の主題歌。
つまりはカヴァー曲ですが、非常に心落ち着く、大人への子守唄ですね。
間奏からのアレンジが感動的。
「君の居場所 (Have a Good Time Here)」。
陽気なサンバなんだけれど、まりやさんの場合は上品さがあって。
楽しく騒いでるけれど、決して、羽目を外すような感じではありません。
最後に変な声が聴こえてくるなあと思ったら、ピカチュウでした。
『ポケモン』の主題歌だったんですね。
「Smiling Days」。
Precious DaysとはSmiling Days。
どんな時でも笑顔でいることが、幸せになれる条件。
小粋でお洒落な散歩でもしているようなサウンドで、ステップ!ステップ!
「Watching Over You」。
作曲とアレンジは林哲司で、杏里とのデュエットと来れば、一気に夜のシティ・ポップ!
ダンサブルなR&Bで、めくるめく時代を見守られる快感。
意外にも、まりやさんと杏里さんの声が結構似ていて、どっちがどっちなのかわからなくなったりします。
「遠いまぼろし」。
大学時代からの盟友・杉真理の作曲・編曲による、憂いなボサノバ。
しっとりと濡れたメロディにまりやさんの声が乗って、アンニュイな雰囲気を漂わせます。
まりやさんと杉さんの関係っていいですよね。いつまでも学生時代の先輩・後輩の付き合いがずっと続いてるのって。なんか羨ましい。
「Subject:さようなら」。
2011年に松浦亜弥に提供した曲のセルフ・カヴァー。
まりやさん王道の切ないバラード。
あややがコーラスで参加していて、アレンジは鈴木俊介ということで、一気にハロプロの世界なのですが、これまたいつものまりやさんの世界と遜色ないという不思議。
あややもこういうバラード得意でした。
だけど正直、コーラスがあややの声だとはあまり認識できません。
「夢の果てまで」。
ピアノの連打がリズムをリードし、意外にダンサブルなんだけれど、切ないメロディが胸を打ちます。
サビで畳み掛けるような盛り上がりに、ワクワクすると同時に胸がギュッと締め付けられるんです。
『はいからさんが通る』の主題歌ということですが、はいからさんて、こういう世界観だったの?
声優・早見沙織への当て書きみたいなところもあるんだと思います。
「TOKYO WOMAN」。
またまた登場、杉さん。
杉さんのバンド・BOXのカヴァーで、演奏もBOXが手掛けています。
と来れば当然、サイケな香りを漂わせた、ビートルズ風ロックンロール。
先輩たちを従え、バンドの前面に立って歌うまりやさんの姿が目に浮かぶようでカッコいい。
「旅のつづき」。
この曲のシングルを買えば、まりやさんのライヴに応募できるということでCDを買ったのを憶えてます。
当然ハズレましたけど。
結局コロナ禍で中止になりましたけど。
Enjoy Your Lifeと、とにかく生きてることに感謝し、人生を楽しめば、幸せはやって来る。
これまたまりやさんの生き方、信念が伝わってくるアッパー・ソング。
「Coffee & Chocolate」。
アカペラ・バラード風なんですが、達郎さんのコーラスも耳に残ります。
とてもシンプルで、落ち着くサウンド&メロディ。
コーヒーとチョコレート。
とにかく人生、休憩する時間が大切よと。
最後のコーラスはビーチ・ボーイズっぽいですね。
「Days of Love」。
まりやさんがシンガーソングライターとしての地位を確立してからは、達郎さんがまりやさんのために曲を作るのは極力避けてたような嫌いがあります。
そんなことする必要はないとでも言いたげに。
それで結局、43年振りとなった、達郎さん作曲・まりやさん作詞の楽曲です。
ややボサノバ風かな。
力を入れるわけでもない、ささやかでさり気ない感じが、アーティスト同士でもあり、夫婦でもある2人を象徴しています。
「歌を贈ろう」。
このアルバムが出る直前、2024年夏に放送していたドラマの主題歌。
『REQUEST』や『Quiet Life』に収録されててもおかしくないような、往年のまりやさんとも言える名曲。
重厚なサウンドのバラードでありながらも、どこか軽やかな感じもします。
ドラマの主役だった元・乃木坂46の生田絵梨花が参加。
終盤でいきなり「♪ LaLaLaLaLaLa」と生田さんが入ってくる瞬間、おお~、いくちゃんの声だあ!とハッキリわかります。
これって、「元気を出して」で、薬師丸ひろ子の「♪ LaLaLaLaLa」が聴こえてきた時に、おお~、薬師丸ひろ子だあ!と思ったのと、まったく同じ感触を得ました。
そして、まりやさんといくちゃんの「♪ 気づこうとすれば」のフレーズからのデュエットにはゾクゾク来るものがありました。
これは凄い!
2人の女優とのコラボが嬉しく感じる曲でした。
「今を生きよう (Seize the Day)」。
カントリー風メッセージ・ソング。
ゆったりとしたサウンドで、優雅に体が揺られます。
つま弾かれるギターのフレーズが良いスパイス。
もう、まりやさん達観してますよね。
でも、決して押しつけがましくなく、肩の力を抜いて聴けます。
「All I Have To Do Is Dream」。
エヴァリー・ブラザーズのカヴァー曲を、達郎さんとのガッツリ・デュエットで。
この平和な空間。
やっぱり2人は仲良いよねと、あらためて。
「今日の想い」。
人生とはつまり、1日1日の積み重ね。
そんな1日の、「お疲れさま」と「おやすみなさい」。
穏やかなバラードに、心地良く眠りに付けそうです。
「May Each Day」。
アルバムのラストを飾るのはカヴァー曲。
アレンジが服部隆之と来ればもちろん、ドリーミーなサウンドで幕、です。
全18曲という、かなりの曲数ですけれど、CD目一杯の収録時間というわけではなく、68分なので、意外と聴きやすい。
これも、何度も繰り返して聴きたいと思える、重要なポイントです。
何曲かの突出した名曲に引っ張られて出来ている名盤もあるけれど、このアルバムは、どこが特に聴きどころというものはなく、高水準の曲が並べられて、むしろ、どこを取っても聴きどころ、みたいな風格を持っています。
基本的には落ち着いた雰囲気が多いものの、時にテンションが上がったりもして、この浮き沈みも人生そのもの。
日常生活の中に、貴重な瞬間が潜んでいることを、まりやさんが優しく教えてくれます。
これから何年にも渡って、時代に耐えうるサウンドとメロディなのは確信して言えます。
いまだ全盛期が続いてることにも驚かされますが、今のまりやさんだからこそ作りだせた世界観でもあります。
まりやさんの人生観、音楽性の嗜好がぎっしり詰まった到達点。
名盤であるのは間違いありません。
エヴァーグリーンです。
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